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「おお、あの笠松殿か」
確かに美濃の知り合いで笠松といえば、母付きの侍女頭くらいしか思い当たる節がない。
濃姫はうむと首肯すると
「我が母に仕えておる者やも知れぬ」
お菜津の手から文を受け取るなり、そのままスクと立ち上がり、室内へと入って行った。
濃姫は居間の上座の腰を下ろすと、さっそく表に“帰蝶様へ”と書かれた上包みを外し、中から丁寧に折り畳まれた文を取り出した。
三保野とお菜津も入室し、着物の裾を整えながら姫の傍らに端座してゆく。
《 帰蝶様におかれましては、まことにお久しゅう、お懐かしゅう存じます。お方様にお仕えする私が、身の程も弁えず、帰蝶様にこのような文をお送り申すこと憚りながらも… 》
初めの文章に目を通した濃姫は https://www.beclass.com/rid=284d9416687c374c02b3 https://carinadarling.pixnet.net/blog/post/155561110 https://healthyhkk.wordpress.com/2024/07/05/%e3%81%97%e3%81%8b%e3%81%97%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%82%82%e4%b8%80%e7%90%86%e3%81%82%e3%82%8b%e3%81%a8%e6%80%9d%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%81%ae%e3%81%8b/
「どうやら三保野の言うた通りのようじゃ」
「では、やはり笠松様から?」
「ええ。…“内々に帰蝶様へお伝え致したき儀があり筆を取った次第”、そう書かれておる」
「内々にとは、どのようなお話にございますか?」
「暫し待て、今読んでおる」
三保野の急かすような視線を浴びながら、濃姫は再び文面に目を泳がせた。
三保野やお菜津は、姫が文を読み終わるまで彼女の細面を眺め続けるしかなかったのだが、二人は一向に退屈しなかった。
文面に視線を落とす濃姫の表情が、喜びから怒りへ、哀しみから楽しさへと、
喜怒哀楽を数秒の内に何度も顔一つで表現するものだから、見ているだけで愉快な気持ちになれた。
ただ、文の内容が良き話なのか悪い話なのかは、姫の表情からはまるで読み取れなかったが…。
濃姫の双眼がようやく文の末尾にまでたどり着くと、彼女は一仕事終えたようにふーっと長い嘆息を吐き、
胸の位置で広げ持っていた文を、ゆっくりと膝の上へ下ろした。
「姫様、笠松様は何と?」
三保野が再び伺いを立てると、濃姫は一瞬言いしぶるような様子を見せたが
「……父上と義龍の兄上とのご不和に拍車がかかったようじゃ」
ややあってから思い詰めたように言った。
文の内容を有り体に説明すれば、信長を討つ討たないの道三と義龍の親子喧嘩から、喜平次が一色の姓を与えられた事、
また、孫四郎が次なる斎藤家当主となるのではないかという、概(おおむ)ねが先達て稲葉山城で起こった事態や、今美濃で広がっている噂ばかりであった。
三保野はそれらの話を聞くなり
「ま!何という…!」
「お可哀想な義龍様…」
「斎藤家はこれからどうなるのやら」
と、先程の濃姫と同じようにころころと顔色を変えた。
が、三保野の顔には“怒”と“哀”、それに加えて“驚”が浮かんでも、姫のように“喜”“楽”は浮かばなかった。
どうやら話にはまだ続きがあるらしく、濃姫は艶紅の引かれた玉虫色に光る唇を、またうっすらと開いた。
「そのような事態になっている故、孫四郎や喜平次までもが兄上を軽んじ、横柄な振る舞いを致しておるそうな」
「そんな…、あのお可愛いらしかった弟君様方が」
尾張へ来る前の、幼さの残るあどけない孫四郎や喜平次しか知らぬ三保野は、
自分の記憶の中の二人との隔たりを感じ、思わず憮然となって肩を落とした。
窘めようとする小見の方を、道三は手で合図して制すると
「義龍。そちは、実の父は儂ではなく土岐氏じゃと、まことにそう思うておるのか?」
射抜くような眼差しを相手に注ぎながらも、落ち着いた口調で問いかけた。
義龍は夢想に耽るような表情を作り、暫し宙に視線をあそばせると、ややあって、その場にはそぐわない和やかな微笑を浮かべた。
「…ずっと以前」
「 ? 」
「尾張へ輿入れる前の帰蝶に、それと同じ様なことを訊かれました。“ご自分が父上の御子ではないとお思いなのですか?”と」
「帰蝶に?」
「某はその時、今のところはそう思ってはいないと答え申した。土岐氏の子などという話は噂に過ぎぬ、我が父は斎藤道三をおいて他にはおらぬと、そう思っておりました故」
「義龍─」
「なれど今や、その思いもすっかり色褪せ申した。考えてみれば、そなた様とはこれまで親子らしい触れ合いなどまるでありませなんだ。
可愛いがられるのは決まって孫四郎、喜平次ら弟たちばかり。刀や槍の稽古とて一度も付き合ってもらった事はありませぬ」https://lefuz.pixnet.net/blog/post/154221637 https://debsy.e-monsite.com/blog/-.html https://www.evernote.com/shard/s729/sh/cb99c5d9-726a-ba7a-fddd-13920e486b0c/dS4W2CnYEerwRfcFP3M1K_N2BKhyVbF2pqd3oy8fVa2935adZ9E9Y77dHw
「……」
「そなた様にとって某は、嫡男を名乗るだけのただの無能者──。前美濃守護・土岐頼芸殿が残していかれた厄介な胤(たね)にしか過ぎなかったのじゃっ!」
獲物を狙う獣のような、生々しくも凄絶な光を帯びた義龍の眼を見て、小見の方はぞっとなった。
それでも道三は微塵も動じる事なく、毅然と頭をそびやかしている。
「申しておきたい事は、それだけか?」
「─!?」
「それだけならば早々に下がれ。子供じみた泣き言を黙って聞いているほど儂はお人好しではない。 …小見!侍女たちを呼び戻せ、酒肴の用意じゃ!」
「は、はい…!」
小見の方が慌てて額づくと
「今一度言うておく。命大事と思うならば、婿殿には手を出すな。あの者は寧(むし)ろ、敵に回すより味方に付ける方が良き男じゃ」
信長ならば心強い後ろ楯となってくれようと、道三はその肉厚な頬に深い笑い皺を寄せた。
義龍はもう言い返す気にもなれなかったのか、ふんっと大きく顔を背けると、その怒りの残る面差しと共に、足早に座敷から出て行った。
座敷を出ると、薄暗い廊下の端に家臣の日根野弘就(ひねのひろなり)が控えており
「そのお顔を拝する限りでは、大殿からのご承諾は得られなかったようにございまするな?」
と臣下らしい無感情な言い方で訊ねてきた。
「ああ…。あのような男の理解を得ようなどと考えた、この儂が愚かであったわっ」
義龍は吐き捨てるように言うと、ダッダッダッと豪快な足音を立てながら、目の前の長い廊下をまっすぐ歩いて行く。
弘就はすぐにその後を追ったが、長身の義龍の歩幅は一段と大きく、付いて行くのもやっとであった。
暫く進むと、どうしたのか義龍の足がピタリと停まった。
「殿、如何なされました?」
訊きながら弘就が前方に目をやると、前から堂々たる佇まいの義弟・喜平次が歩いて来るのが見える。
喜平次は前方に立ち竦んでいる義龍の姿を認めると、にっと笑い、そのまま立ち止まることもせずに義兄の横を通り過ぎようとした。
これに弘就は
「喜平次様、暫しお待ち下さいませ!」
と慌てて相手を引き止める。
「殿が目の前におわしまするのに、素通りとは幾らなんでも無礼が過ぎましょう!? 一旦立ち止まり、廊下の端に下がって一礼するのが礼儀ではございませぬか?」
弘就が諭すように言うと、喜平次は振り返るなり、少年っぽい無邪気な笑顔を見せて
「これは失礼を致しました。あまりにも兄上の影が薄い故、目に入りませなんだ。お許しあれ」
頭を垂れつつ、俄に侮蔑のこもった眼差しを義龍に向けた。
弘就は「喜平次様!」と怒りの声を上げたが、義龍はすっと目を細めただけだった。
納得したような、しかしまだ不満も残るような信長の不明瞭な顔を見て
「それよりも殿、この前庭をご覧下さいませ」
濃姫はすかさず夫の身体を室内から外へと向け直した。
「せっかく殿が美しき部屋を用意して下されても、庭がこのように殺風景では満ちた心も萎えてしまいまする」
確かに前庭には老松と庭石くらいしかない。https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-98.html https://mathew-anderson.mystrikingly.com/blog/add-a-blog-post-title https://www.minds.com/blog/view/836493763118686208
さすがに信長も無風流と感じたのか“これはしたり”と、軽く太股の辺りを叩いた。
「どうかお願いにございまする。腕利きの庭師を集め、どうぞこの庭を季節の花々が咲き乱れる、情緒ある庭につくり替えて下いませ。殿の御居城に相応しきものに」
妻の甘えるような懇願に、信長も、見落としていた自分自身が許せなかったのも相俟ってか
「しょ…承知致した。これに関しては早急に手配を致そう」
「有り難う存じまする」
「これだけじゃな?他に何か不備はなかったであろうのう?」
「はい、他には何も。──されど確か、あちらの中庭の方も…」
濃姫はどんどん別の方向に話を持っていき、信長の意識を部屋の設え云々から離していった。
いつもなら鋭く双眼を光らせる信長を、ああも易々と自分のペースに乗せてゆく姫の姿を見て、三保野はやれやれとかぶりを振った。
妻の裁量というよりは、ただの誤魔化しである。
姫もまた小狡い手を使ったものだと、三保野は小さな嘆息を漏らした。
けれど、以前の濃姫ならば
“幾らなんでも派手過ぎる!”
“このような部屋では落ち着かぬ!”
と説教じみた不服を申し立て、確実に信長と衝突していたであろう。
それを考えると
『 殿の機嫌を損ねぬよう努めただけ、姫様も少しは成長なされたのであろうのう… 』
そう思うて差し上げなくてはなと、三保野はその口元に柔らかな笑みを湛えるのだった。
「──それはそうと」
外に向いていた信長の目が、ふと濃姫に移った。
「先達て末森の城より知らせがあってな。此度の戦勝と城移りの祝いを申しに、二日後、この清洲の城へ信勝と母上が参上致す事と相なった」
「まぁ、左様にございましたか。お二方にお会いするのも久方ぶりにございますね」
「そうじゃな。……母上の世話はそなたに任せたぞ。適当に相手をしてやってくれ」
「適当にだなんて─。報春院様は、殿の実のお母君ではございませぬか」
「儂にとっての母は恒興の母である大御ちじゃ。同じ腹から生まれし信勝やお犬、お市を弟妹(きょうだい)と思えど、末森の母を母と思うた事などない。一度もな」
声を濁らせて語る夫の心中を、濃姫は慮(おもんぱか)った。
「殿と報春院様のご関係は、言うまでもなくよう存じておりまする。されど報春院様とて人の子、鬼ではございませぬ」
「何が言いたい?」
「一度心を開いて話し合(お)うてみては如何にございますか?」
「あの血の冷たい母と何を話せと申すのだ」
「殿の聡きところを見せ、昔のようなうつけではない事をお示しになられれば、報春院様とてきっと殿の良さをご理解下さいます。
今はただ、信勝様お可愛さのあまりお目が曇られているだけ…。
曇っているのならば、殿がご自身のお手で、それを拭って差し上げて下さいませ。それが関係改善の近道かと存じまする」
真摯に告げる濃姫を、信長は静かに一瞥すると
「もう良い、その話は──。末森の一行が挨拶に参る話が、何故に儂と母上の話になるのだ」
信長、濃姫一行が清洲城に住まいを移した後も細かな改修は続けられ、暫くは落ち着かぬ日々が続いたが…
その年の十一月二十六日。
「──那古屋の織田信光様!御横死!」
突として舞い込んで来た悲報に、清洲城内は一瞬静まり返った。
濃姫もここ最近にはなかった落ち着きぶりで、使者がもたらした報に耳を傾けていた。
何でも信光は“不慮の事故”により、那古屋城で突如その生涯を終えたと言うのである。
信光にとっては絶頂期とも言える今の時分での急死──
濃姫は怪訝の色を隠せなかった。https://rty4fp.webmepage.com/carina-cyril/blog http://kotone22.blogaholic.se/2021/may/111960/2018126041123941235612397/ https://suzanwines.blogspot.com/2024/07/blog-post.html
これは後に三保野がどこからか仕入れて来た話だが、実は、信光の正室・松平氏と密かに情を通じていた重臣・坂井孫八郎が、
奥方との不義が信光に知られるのを恐れて、信光を斬り殺してしまったというのである。
なるほど、それなら不義密通の露見を恐れた故の謀反による死という事になるが、何せ時期が時期である。
口さのない者たちの中には
「これはきっと、織田家を早々と統一なされたい信長様による暗殺であろう。信光様の力がこれ以上強大になれば、信長様もいつお命を狙われるか分からぬからのう」
と、笑いながら言う者もあれば
「いや違うね、これは弟君の信勝様を擁立しようと企む一派の暗殺であろうよ。いつまでも信光様の後ろ楯があっては、信長様を討ち取る妨げになるからな」
と憶測を並べる者もいた。
だが濃姫は信じなかった。
どれもこれも確証のない話である。
少なくとも我が夫は、例え信光に何らかの思惑があったとしても、一戦も交えずして、
長らく支持者であった実の叔父をこのような形で謀殺するような男ではない。
それほどに情けない人間ではないと、濃姫は信じたかったのである。
しかし、付け加えるように三保野から
「亡き守護代・信友様がその腹を召される前に、信光様に申したそうでございます。
偽りの起請文をしたためた神罰がいずれ下ると、天道に背いた者は必ず自分のようになるのだ、と」
「信友様が !?」
「はい。故に信友様ご切腹の場に居合わせた者たちは皆、信友様の祟り、天道に背いた報いじゃと申して恐れおののいたと聞き及びまする」
「…報い……」
この話を伺った時は、さすがの濃姫も自身がその助言者であるが故か、その華奢な肩を大きく上下に震わせた。
そしてふいに、道三や義龍、孫四郎、喜平次の顔が光の点滅の如く刹那的に脳裏に浮かんだのである。
何故 信長よりも先に美濃の親族たちの顔が浮かんだのか、この時の姫には分からなかった。
ただ、兼ねてよりの不安が現実のものとなったら…。
神罰というものが本当にあるのだとしたら…。
氷のように冷たい汗が、背中を這(は)うように流れ落ちてゆく心地の悪さに、濃姫は苦悶の表情で耐えているのだった。
──清洲城が那古屋城に比べて格段に豪奢で格調高いのは言うまでもなかった。
それが信長の大掛かりな改修によって、城内はこれまでにも増して宏壮な構えとなり、
御門も南北に位置する櫓も、すっかり新城主の趣へと変化したのである。
何もこんな曖昧な言葉を告げたかった訳ではない。
本当は、側室などお持ちにならないで下さいませ、と声を大にして叫びたかった。
が、僅かながらの理性と、那古屋城主の正室という立場がそれを制していた。
濃姫は、今の自分が口に出来る最大限の無礼で、その内なる想いを信長に伝えようとしているのだった。
「……」https://carinaa.animegoe.com/Entry/6/ https://mypaper.pchome.com.tw/carinacyril786/post/1381806313 https://edward.anime-voice.com/Entry/6/
信長は妻の想いを察したのか、逆に察し切れなかったのか、彼はひどく深刻そうな表情で姫を見つめると
「─お濃」
何か言いたげに唇を軽く上下させながら、そっと姫の艶やかな黒髪を撫でた。
髪に触れる信長の手は、宝物を扱うように優しかったが、信長の口からはそれ以上言葉が漏れることはなかった。
まるで蟠(わだかま)りが残るような、居心地の悪い空気が二人の間に流れた時
「ご無礼つかまつります──」
池田(勝三郎)恒興が小走りにやって来て、信長の足元に控えた。
信長の手が唐突に姫の頬から離れ、彼は狼狽顔で己の乳兄弟に目をやった。
「恒興か。何用じゃ?」
「殿、急ぎ御書院の方へお出座し下さいませ。守山城より織田信光様がお越しにございます」
「叔父上が?」
「是非とも殿のお耳に入れたき、大事なる報を持って参られた由」
「報じゃと」
信長の細く整えられた眉が、一瞬ぴくりと波打った。
このような時分での、それも火急の訪問である。
大方今川か、または此度の清洲の一件が絡んでいるのであろうと察した。
が、大事なる報とは何であろう…。
信長は眉間に深い皺を寄せながら、暫し宙に視線を遊ばせると
「相分かった、すぐに参る」
踵を返し、御殿に戻ろうと歩み始めた。
濃姫は、恒興と共に去ってゆく夫の広い背中を、悄然とした面持ちで見送っていたが
「そうじゃ……お濃よ!」
信長は急に足を止めて、姫の方へ振り返った。
「ちょうど良い、そなたも付いて参れ」
濃姫が思わず「え?」となっていると、信長はつかつかと姫の前に歩み戻って来て
「良いから来い。久方ぶりにそちの見解が聞きとうなった」
濃姫の手首を取るなり、ぐいぐいと御殿の方へ引っ張って行った。
城の表書院では、信光が下段の中程にどっしりと腰を据えて、やや急いた表情で信長の訪れを待っていた。
守山城主・織田信光は、今は亡き信秀の弟にあたり、小豆坂の戦いにおいては小豆坂七本槍の一人として名を馳せた、武勇の誉れ高い人物である。
織田家の親族や家臣たちが揃って品行方正な信勝を支持する中で、信光は嫡男たる信長を支持し、
かつての「萱津の戦い」「村木砦の戦い」においても信長勢と共に戦い、その勝利に貢献し続けてきた影の功労者でもあった。
そんな彼が前触れもなく信長の元へやって参ったのは、これまで同様、どこかで信長の“次なる勝利”を確信していた故なのかも知れない。
「──これは叔父上、ようお出で下さりましたな」
やがて、豪快な足音を響かせながら信長が座に入って来ると
「おぉ、信長殿。待ちわびましたぞ。いや、突然押し掛けてしもうて申し訳ない」