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納得したような、しかしまだ不満も残るような信長の不明瞭な顔を見て
「それよりも殿、この前庭をご覧下さいませ」
濃姫はすかさず夫の身体を室内から外へと向け直した。
「せっかく殿が美しき部屋を用意して下されても、庭がこのように殺風景では満ちた心も萎えてしまいまする」
確かに前庭には老松と庭石くらいしかない。https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-98.html https://mathew-anderson.mystrikingly.com/blog/add-a-blog-post-title https://www.minds.com/blog/view/836493763118686208
さすがに信長も無風流と感じたのか“これはしたり”と、軽く太股の辺りを叩いた。
「どうかお願いにございまする。腕利きの庭師を集め、どうぞこの庭を季節の花々が咲き乱れる、情緒ある庭につくり替えて下いませ。殿の御居城に相応しきものに」
妻の甘えるような懇願に、信長も、見落としていた自分自身が許せなかったのも相俟ってか
「しょ…承知致した。これに関しては早急に手配を致そう」
「有り難う存じまする」
「これだけじゃな?他に何か不備はなかったであろうのう?」
「はい、他には何も。──されど確か、あちらの中庭の方も…」
濃姫はどんどん別の方向に話を持っていき、信長の意識を部屋の設え云々から離していった。
いつもなら鋭く双眼を光らせる信長を、ああも易々と自分のペースに乗せてゆく姫の姿を見て、三保野はやれやれとかぶりを振った。
妻の裁量というよりは、ただの誤魔化しである。
姫もまた小狡い手を使ったものだと、三保野は小さな嘆息を漏らした。
けれど、以前の濃姫ならば
“幾らなんでも派手過ぎる!”
“このような部屋では落ち着かぬ!”
と説教じみた不服を申し立て、確実に信長と衝突していたであろう。
それを考えると
『 殿の機嫌を損ねぬよう努めただけ、姫様も少しは成長なされたのであろうのう… 』
そう思うて差し上げなくてはなと、三保野はその口元に柔らかな笑みを湛えるのだった。
「──それはそうと」
外に向いていた信長の目が、ふと濃姫に移った。
「先達て末森の城より知らせがあってな。此度の戦勝と城移りの祝いを申しに、二日後、この清洲の城へ信勝と母上が参上致す事と相なった」
「まぁ、左様にございましたか。お二方にお会いするのも久方ぶりにございますね」
「そうじゃな。……母上の世話はそなたに任せたぞ。適当に相手をしてやってくれ」
「適当にだなんて─。報春院様は、殿の実のお母君ではございませぬか」
「儂にとっての母は恒興の母である大御ちじゃ。同じ腹から生まれし信勝やお犬、お市を弟妹(きょうだい)と思えど、末森の母を母と思うた事などない。一度もな」
声を濁らせて語る夫の心中を、濃姫は慮(おもんぱか)った。
「殿と報春院様のご関係は、言うまでもなくよう存じておりまする。されど報春院様とて人の子、鬼ではございませぬ」
「何が言いたい?」
「一度心を開いて話し合(お)うてみては如何にございますか?」
「あの血の冷たい母と何を話せと申すのだ」
「殿の聡きところを見せ、昔のようなうつけではない事をお示しになられれば、報春院様とてきっと殿の良さをご理解下さいます。
今はただ、信勝様お可愛さのあまりお目が曇られているだけ…。
曇っているのならば、殿がご自身のお手で、それを拭って差し上げて下さいませ。それが関係改善の近道かと存じまする」
真摯に告げる濃姫を、信長は静かに一瞥すると
「もう良い、その話は──。末森の一行が挨拶に参る話が、何故に儂と母上の話になるのだ」