[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「ほら、立てェ。退却すんぞ。直に此処にも火が回ってきちまう」
「は、はい……。あッ、さっきそこに宮川さんが……!」
「──宮川は死んだ。……残念だがよ、仏さんを引き上げる余力は無ェ。行こう」
彼は井上の六番組に属していた比較的若い隊士だった。故郷へ送る形見すら回収出来なかったことを悔やみつつ、http://janessa.e-monsite.com/blog/--82.html https://www.evernote.com/shard/s330/sh/e38c2d18-73b8-ec11-fdd5-2592f46a55ff/BJYbdjjkRp8adcJREFUe4-FyMUX1c2giGsqdWDKaLH7qyddBwF7efK86qQ https://blog.udn.com/79ce0388/180109162 桜司郎は井上と共に背を向ける。
やがて奉行所へ駆け込んだは良いものの、既に炎上している。最前線の伏見からは撤退し、淀へと下がる決断がなされていた。
そこから鳥羽への出陣を試みるとのことである。
賄い方により握り飯が配られた。それを口へ運んでいると、隣へ井上が立つ。
「……さっきは済まねえなァ……。オラの組の奴ン為に」
「いえ…………。でも、何も出来ませんでしたから」
「…………なあ、榊君。どうして手前が生き残っているのか、考えたことはあるかい?」
その問い掛けに桜司郎は瞬きをした。それの意図が分からず、横目で井上を見遣る。
「……オラはな。近藤先生の門弟として、生涯を天然理心流へ捧げるつもりだった。平凡な百姓として死ぬモンだと思っていたよォ。……けれど、近藤先生と歳のお陰で幕臣にまでならせて貰った。大それた夢を見ているんじゃねえか……って今でも思っている」
「井上先生……?」
感慨深そうで、けれども何処か覚悟を宿した瞳をしていた。
「二人に与えてもらった、武士の名を汚さねェように散りてえ」
「ちょっと、止めてくださいよ……。縁起でもない。局長が居ない今、井上先生じゃないと副長を支えられないんですから」
軽口ながらも遺言のようなそれに、桜司郎は眉を寄せる。そうすれば、井上はカラカラと笑った。
「ンなことはねえべよ。今残ってくれとる組長格のことを、歳は心から信頼している。……ほら、いつ何があるか分からねえだろう。オラに何かあった時は、歳と甥の泰助のことを頼んだぞォ…………」
手のひらにあった残りの飯を口の中に詰め込むと、ひらひらと片手を振って陣中へと消えていく。 御香宮へと決死の切り込みへ向かった永倉とその隊も命からがら戻ってくる。大砲へ近付こうとしたが、銃弾の雨にやられて撤退したのだという。
新選組は鳥羽街道を南へ、淀まで退却せざるを得なくなった。夜だというのに、漆黒の空は赤く燃えて見えた。
それを時々振り返りながら、桜司郎はポツリと独りごちる。
「──まるで、業火だ…………」
一体誰が罪人なのだろう。二百六十年ものの天下と鎖国を敷いておきながら、異国からの圧力に押されて攘夷をもマトモに行えなかった幕府か。それとも、平穏を破ってでも倒幕を成し遂げようとする薩長か。
「桜司郎……」
そこへ隣にいる山野が口を開いた。
「ん」
「……この戦、何かが違うぜ。ちょっとやそっとじゃ終わらねえ気がする」
そう思っているのは山野だけではない。この場にいる誰もが"この戦はおかしい"と思い始めていた。薩長の軍勢が僅か五千の見立てに対して、旧幕府軍はその三倍の一万五千もいる。数の利では圧倒できる筈なのに、その実は圧されていた。
薩長の保有する火器の性能が、遥かに旧幕府軍のそれを上回るのだ。一度火を吹けば、こちらは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うしか方法がない。
今すぐ大雨でも降らない限り、どうしようも無かった。
口には出せないが、絶望の文字が薄らと見え隠れする。
じゃ!」
「新撰組一番組組長、榊桜司郎です」
戦場に似つかわしいほど穏やかな笑みを浮かべながらも、恐ろしいまでの殺気を放っていた。
その時、横から別の薩摩藩士が斬りかかってくる。視界の悪さを払うように白刃が横に走らせれば、ゴロリと首が落ちて血飛沫が飛んだ。
「ひ…………ッ、お、鬼じゃ、鬼──」 https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post502251933// https://www.bloglovin.com/@freelancer10/12243180 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/120794623
腰を抜かしかけた男の首も地面へ伏す。返り血を拭いながら、山野が桜司郎の肩を叩いた。
「敵と話してんなよ。これいいな、貰っておこう。……次行くぞ!」
薩摩藩士が手にしていた銃を拾い上げると、山野は駆け出す。 己の中にこれほど残酷になれる一面があったなど知らなかった。
銃口を向けてくる相手を撹乱しながら、的確に急所を突いて回る。重鎮の思考などまるで知らぬような下っ端の兵士だと分かりつつも、親の仇のようにただ斬った。
そうすればするほどに血が滾る一方で、心が冷めていく。飛び交う銃弾すら遅く見えた。骸をひらりと飛び越え、着地と共に切り上げれば瞬く間に血が舞う。
返り血で羽織がぐっしょりと重くなったことが煩わしいのか、桜司郎は向かってきた敵の顔へ被せるように投げ付けた。そして怯んだ隙に足払いをし、倒れ込んだところを上から突き刺す。
次の敵を探すように顔を上げたその時だった。
複数の薩摩兵が近くの建物へ火を放った。恐らくは街ごと焼き払う気なのだろう。
「──桜司郎!駄目だ、これ以上は進めねえ!」
パチパチと火花が散る。後ろを向けば、大砲が直撃したのか伏見奉行所からも火の手が上がっていた。
「……火…………」
やがて轟々と燃え始めたそれを見て、桜司郎は呆然と立ち尽くす。その目には畏れと共にが死んだ時の光景が浮かんでいた。
「──司郎ッ、桜司郎ッ!早く!」
その切羽詰まったような声にハッとすると、駆け出そうとする。
だが目の端に、蹲る男を捉えた。肩にはの一文字をあしらった袖章を付けており、それが隊士であることが一目瞭然である。
「八十八君!先に行ってて!直ぐに追い掛けるッ」
桜司郎はそう叫ぶと、退却方向とは逆に駆け出した。隊士の元へ向かい、声を掛けるが急所を撃たれたのか既に虫の息だった。
そこへ近くに大砲が着弾し、その衝撃で身体が飛ばされた。幸か不幸か建物に叩き付けられる。
「グッ、ゲホゲホッ」
一瞬息が出来なくなり、咳き込んだ。生理的な涙を浮かべながら、山野の姿を目で探すが何処にも居ない。
桜司郎の背にある長屋にも火が及び、ぐらりと屋根の瓦が崩れかける。だがあちらこちらの銃声や轟音にかきされ、それに気付けなかった。「──榊君、前へ避けろォッ!!」
ビリビリと鳥肌が立つほどの声量が桜司郎を貫く。その声に導かれるように、咄嗟に前方へ転がった。
すると、紙一重で背後にガシャンと音が聞こえる。恐る恐る後ろを向くと瓦が数枚割れていた。
「全く、前々から思っていたんだがよォ。お前さんは何処か生き急ぐ節があるなァ」
「い、井上先生……」
この辺りの戦闘を担当していたのだろう、ところどころ顔に煤が付いた井上が駆け寄ってくる。負傷したのか、二の腕辺りの袖が破れて出血していた。
そしてその時、山口の言葉を肯定するかのように奉行所の建物へと着弾する。破壊音と共に木片が飛んできた。衝撃に耐えるように、腕で顔を覆うと永倉は舌打ちをする。
「…………それなら、大砲を止めてやる!懐へ入りこめされすりゃ、こっちのモンだッ!二番組、出陣の支度をしろ!……良いよな、土方さん」
新撰組の指揮官は土方だ。https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/2e63be4217ebdc691b95e6d3a1b2de24 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/11/28/223910?_gl=1*1w5jgsx*_gcl_au*MTU2NTI2NzMwOC4xNzAxMTcwMDU2 https://ameblo.jp/freelance12/entry-12830492855.html その許可を求めるように、永倉はギラギラとした視線を送る。
土方は眉間に皺を寄せると、近くにあった鉢金を掴み、永倉へと放った。
「ああ。あの大砲を止められりゃ御の字だ、頼んだぜ。……ただし、無理はするな。ここが最後のになるとは思えねえ。適当なところで切り上げて来い」
「応よ!」
受け取ったそれを額へ括り付けると、ドタドタと廊下を踏み鳴らして駆けて行く。
それを横目で見送った桜司郎も膝を立てた。
「──では、一番組も追随しましょう。切り込み隊の一番組が遅れを取ったとあらば、沖田先生に面目が立ちませんから」
「なら、三番組はその背を守ろう。……おい榊、甲冑くらい着込んだらどうだ」
山口はその格好──鉢金のみを見咎める。だが、桜司郎は首を振った。
「私は着物の中に鎖を着ていますから。それに鉄砲や大砲の前には甲冑は無力ですよ。むしろ動きが鈍くなって、白兵戦の最大の利点を失ってしまいます」
至極冷静な分析と、瞳に宿る静かな焔に山口は息を飲む。本来、白兵戦であれば機動力も大事だが、防御力も肝要なはずだ。
しかし、この戦場において主たる武器は刀や槍ではなく、鉄砲や大砲であるのだと短時間で見抜いていたのかと舌を巻いた。
「…………あんたの言う通りだ。足枷になるものは捨ておくべきだな。では、参ろう」
頷きあった山口と桜司郎は部屋を出ていこうとする。その背へ、土方が「生きて帰れ」と声を掛けた。 奉行所から飛び出したところで、一旦足を止めた。既に会津軍と薩摩軍は交戦しており、新型の兵器にやられたと思わしき会津の負傷者が次々と運ばれてくる。
中には腕や足が無い者から、目が潰れた者まで居た。その手に握られた刀には脂ひとつ付いていないことから、切り結ぶ前にやられたことが見て分かる。
「──畜生。ついこの間まで、薩摩は会津と手を組んでいたじゃないか」
隣に居る山野は歯噛みをした。それは禁門の変のことを指すのだろう。会津と薩摩が共に長州を追い出した事変だ。
「なのに…………奴ら、俺たちのことを虫けらのように撃ってきやがる……ッ」
「……今は何を言ってもどうしようも無いよ」
「だって、桜司──」
横を向くなり、山野は言葉を飲み込む。の目が今までに無いほどに怒りの色を堪え、静かに震えているのだ。
山野には知る由もないが、坂本の件や御陵衛士を誑かしたのも恐らくは薩摩である。それらも相俟って、余計に許せなかった。
「ただ、一泡吹かせるのみ。──一番組ッ!固まると的になる故、二人一組で行動!止めは刺すな、!目標は御香宮!……ただし、絶対に誰も死んではならぬ!」
その言葉に素早く一番組の隊士は組を作ると刀を手に駆け出す。流石は沖田が纏めあげた組といったところだろうか、誰一人未知の戦に恐れの欠片も見せなかった。
大砲がひとつ着弾すればたちまち土埃が高く舞い、銃声は足音を描き消す。それを利用し、一気に距離を詰めた。
急に目の前に刀を持った者が現れたからか、銃の弾込めをしていた薩摩藩士は目を丸くする。
「だ、
の一文字に、途端に現実が目の前に迫った。幹部のみにしか伝えられていないが、江戸で薩摩藩邸が焼き払われた件については桜司郎も知っている。
恐らくはこの数日のうちに火蓋が切られるのだろう。
「……そうだね。https://www.evernote.com/shard/s330/sh/2ba52982-4bc4-190b-4a48-c888b16276dc/eLxuiQY66iSQm5DiS06WBquy3mvqC-JX3WEYtg_qBGfGzF16V2GOku7F-g https://blog.udn.com/79ce0388/180109120 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202311280007/ 絶対に生き抜こう──」
行灯の明かりに僅かに照らされた横顔は、何処か遠い過去を見るように憂いを帯びていた。
その読み通りに、ついに開戦となる。正月も明けきらぬ僅か三日後のことだった。 陽も傾きかけた夕刻のことである。
ドン、と天地を割くような砲撃の音が立て続けに聞こえた。入京せんとする旧幕府軍とそれを阻もうとする薩摩軍が鳥羽街道の赤池付近にてぶつかり、やがて痺れを切らした後者が砲撃を開始したのだ。
それを皮切りに、新撰組が布陣する伏見でも戦いが始まる。
「──どうするッ、土方さん!」
奉行所内の一室に土方を中心とした組長が集められた。もはや熟考を重ねている猶予は無い。
土方は事前にあちらこちらへと斥候を配っていた。馬で駆け戻ったその者らから戦況報告を受けるなり、拳で畳を殴る。
「……そういうことか、」
「何がやられたんだよ、分かりやすく簡潔に言ってくれ!俺の頭でも理解できるように!」
原田の無茶ぶりを土方は鋭い眼光で黙らせると、苦々しく顔を歪めながら口を開いた。
「俺らが当初聞かされてたのは何だった」
「……江戸で傍若無人を繰り返す薩摩を討つべく、慶喜公が討薩表を朝廷へ提出。旧幕府軍が京入りしてから開戦となる──と」
山口の冷静な声が狭い部屋に響く。
「そうだ。その為の進軍を見廻組を中心にしていた筈だろう。しかも、聞くところによれば奴らを刺激せんように軽装で来るようにと言われていたらしい。……だが、その街道を薩摩が防いでやがった。しかも開戦した途端、あちらこちらで砲撃が始まったんだぜ」
「そりゃあ、随分と出来すぎた話しじゃねえかい」
赤池で戦闘が留まるのであれば、それは偶然と言えるものだったのかもしれない。だが、実際は戦火は瞬く間に伏見にまで及んでいた。
しかも進軍する旧幕府軍は戦闘を予想していなかったために、為す術なく壊滅級の損害を被っている。
「──つまり、江戸で薩摩が挑発行為を繰り返したことに対して腹を立てた時から、全て彼らの手のひらで転がされていたって訳ですね。も全て最初から仕組まれていたんだ。上手くしてやられましたね……」
桜司郎が喋り終えた瞬間、衝撃音と共に建物が揺れた。
「……こりゃあ近いぞッ!どっから撃たれた!?」
永倉は弾かれるように廊下へ飛び出すと、裸足で中庭へ駆ける。その間も弾が飛んできており、北の方角──薩摩が布陣している御香宮が射撃拠点となっていた。 伏見奉行所と御香宮は目と鼻の先に位置していた。しかも、御香宮の方が高台であるため明らかに分が悪い。
「畜生、バカスカ撃ちやがってッ!うちの大砲は、」
「無理だ。高台へ撃てるほどの飛距離は無い。しかも先程から狙いが随分と正確になって来ている。大砲を打ち込もうものなら、格好の的だ」
会津から支給された大砲は旧式のものであり、大した飛距離も見込めない上に、砲弾を篭めることにすら時間が掛かる。薩摩が使用するものに対して性能が劣ることは、素人目でも分かった。
既に酔っているのだろう、顔を赤らめながらも浮かない表情をしていた。酒を呑んでもこの表情をしている時は、何か良くないことを考えているのだと知っている。
「寂しいよ。それはそうなんだけど…………」
「なんだなんだ?言ってみろって。俺たちは大事な友だろう」
そう問い掛ける声は、https://www.bloglovin.com/@freelancer10/12243156 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/120792757 http://janessa.e-monsite.com/blog/--81.html いつも以上に優しい。だからだろうか、酒の力も相俟って心を縛っていた糸がふわりと解けた。
「───実は。昨日、母上が亡くなったんだ」
「母上……?──って、桜司郎、お前……記憶が戻ったのか?」
その問い掛けに対して少し考えた後に桜司郎は頷く。
「……黙っててごめん。それも最近なんだ……。前に全員へ一日休暇が与えられたことがあったでしょう?その時に、命の恩人の女性の元へ行ったんだけどね。実はその人が母上だと思い出したんだよ……」「まさか、そんな摩訶不思議なことが……」
「そう思うよね。私も未だに信じられない節もあるもの。でも…………あの人の声を聞くだけで、涙が出そうになるんだ。これは間違いなく母上だって心が叫ぶの」
ぽたり、と盃の水面に波紋が広がる。
その様子を見ていた山野は、その震える肩に手を置いた。
「信じるぜ。俺はお前のことなら何でも信じると言ったろ……」
それを聞いた桜司郎は、自分の生い立ちについてこの友に聞いてもらいたいという気持ちになる。
──きっと八十八君なら、世迷言だと笑わずに聞いてくれるかもしれない。
だが、ふとある疑問が沸いた。
「……八十八君」
「ん?どうした」
「今更なんだけど……どうして私と仲良くしてくれようと思ったの?」
それはずっと思っていたが、勇気が出ずに聞けなかったことだった。思えば入隊して直ぐに山野から話し掛けてきて、今まで仲を深めてきた。
「何だよ、照れ臭いこと聞くなって。……けれど、そうだな。戦でどちらかが死んでもおかしくないからな、特別話してやるか。……最初は俺、桜司郎のことさ、胡散臭いし間者だと思っていたんだよ」
「う、うん……」
「記憶無くしてわざわざ新撰組に来るってどういう了見だ?ってさ。だがそれは副長助勤が連れてきたって分かったし、何より沖田先生や藤堂先生との手合わせを見た時に、真っ直ぐな奴だなって思って。興味が湧いたんだ……」
しかし使用人時代は副長助勤以外とは交流を持ってはいけない決まりとなっていたのだ。それは平隊士にも厳命が降りていたという。疑わしきは罰することになると。
「入隊が決まった時は嬉しかったぜ。やっと話せるんだってな。案の定良い奴だったから、絶対に仲良くしようって思ってさ。……記憶が無いなんて、俺なら耐えられねえのに、お前は身一つでここまで道を切り開いてきたろ?俺、こう見えても桜司郎のこと尊敬しているんだ……。……って、恥ずかしいからこの話はこれで終わり!な!」
山野は照れたように歯を見せて笑った。それは泣きたくなるほどに嬉しい言葉で。
ありったけの信頼を返さねば罰が当たる気がした。
「……あのね…………他に思い出したことがあるの。聞いてくれる?」
「ああ。桜司郎が自分のことを喋るのって滅多にないからなァ。聞かせてくれよ」
その言葉を皮切りに、桜司郎は己について語り出す。
女であることは伏せ、自分が桜之丞であることとその知りうる記憶について話した。あまりにも浮世離れした話しではあったが、山野は決して夢物語だと馬鹿にすることなく黙って聞き入る。「──桜司郎。それって……輪廻転生じゃねえのか」
「輪廻転生…………」
その言葉には聞き覚えがあった。まさに三年ほど前、山南の葬式の帰り道に山野が口にしたものである。
「ああ。きっとそれだよ。……凄いな、本当にあったんだ」
「……こんな話し、信じてくれるの?」
「言ったろ?信じるって。いくら酔っているとはいえ、桜司郎は嘘は吐かないって知っているよ」
手酌で酒を飲みながら、山野はカラカラと笑った。
「オウノスケ……だったか?その人だったことは思い出したのに、母君に拾ってもらう前何処に居たのかってことは思い出せないのかよ?」
その的確な指摘に桜司郎は頷く。結局は元々の記憶が無いものだから、現世での家族や家については全く明らかにはなっていない。
「そうだね……。手掛かりも無いからどうしようも無くて。せめて無事だってことくらいは伝えたいけれどね」
「きっかけさえあれば、また思い出せるかも知れないぜ。戦が終わったらゆっくり探すのもアリかもな……」