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『お前が芹沢にあいつを会わせたくない事ぐらい分かってるっつうの。』
まぁ会わすつもりは毛頭ないが,たまにはこれぐらい言っておかないと。
やられてばかりでは名が廃る。
総司の表情が少しばかり歪んだのを見てほくそ笑んだ。土方の睨みが相当効いたのか,誰もが逃げ出してしんと静まり返った道場。
「よしっ!やるか。」https://appssimilartowhatsapp70369.blogoscience.com/13268583/what-is-an-option-put-and-call-option-explained-stock https://firemagic09.bravejournal.net/ https://hectorfy098.shotblogs.com/call-option-put-options-best-option-call-put-tips-22906856
たすき掛けをして,動きやすいように裾も捲り上げて床磨きを始めた。
その姿を背後から眺める隊士が三人。
うなじに束ね損ねた黒髪が一筋,まとわりついているのが妙に色っぽく見えた。
それに加えて無防備にさらけ出した足にごくりと唾を飲む。
「一人で大変だな。副長も酷い事するよ。」
気遣う言葉をかけながら歩み寄って来る三人を見て三津は笑顔を見せた。
「辛い思いさせられて可哀相に,俺らが慰めてやるよ。」
「いえ,私は別に…。」
土方に苛められてる訳じゃない。
そう言い終わる前に硬い床に押し倒されていた。
手は抑えつけられ,口も塞がれた。
自分に馬乗りになり卑しく笑う目に捉えられた時,ようやく恐怖心が湧き上がった。
「大丈夫,女を悦ばせる方法はよく分かってるから。」
首筋を上に向かって,生暖かくざらりとした感触が伝い,ゾクッと悪寒が走った。
『油断したらアカン。』
たえの忠告の意味を今更理解した。
今気付いたってもう遅い。
でもこの状況を回避出来るのも自分だけ。
着物を乱されるのを足をばたつかせて抵抗する。
その足が運良く水を張っていた桶を蹴飛ばした。
派手に倒れた桶に隊士たちが気を取られている隙を突き,大きく身を捩って拘束する手から逃れた。
それから必死に道場を飛び出した。
その夕刻,なかなか自分の所へ来ない三津に土方の苛々は募るばかり。
『いつまでかかってやがる。』
予定では今頃肩を揉ませてるはずだった。
そこへたえが顔を出した。
「そろそろお三津ちゃん返してもらえません?夕餉の支度がしたいんですけど。」
「あいつならまだ掃除してるだろ。庭に行ってみな。」
ここには来てないとたえを追い返した。
土方に追い返されたたえは言われた通りに庭へ行くも三津の姿はない。
「おかしいなぁ…。」
こうなれば頼れるのは総司だけ。
たえは総司に協力を求めた。
「え?三津さんがいない?屯所内で迷子ですか,それは大変だ。」
総司はくすりと笑い,たえと手分けして屯所内を隈無く探した。
それでも三津の姿はどこにも無かった。
流石に総司も焦りを感じた。
まさかまだ道場だろうか?
不安を抱きつつ道場へ向かった。あれからずっとこの時刻まで床磨きを?
そんなはずは無いと思ったけど,それでも道場にいてくれた方がまだ安心だ。
早くその姿を見つけたくてせわしなく廊下を歩いていると,
―――…ひっく。
微かにしゃくりあげる様な声が聞こえた。
誰かが泣いている?
「三津さん?」
足を止めて耳を澄まして,気配を感じ取ろうと神経も研ぎ澄ます。
『いる…。』ぐるりと見渡して目に留まったのは小さな納戸。
総司の足は一直線に納戸に向かい,妙な緊張感で汗ばむ手でゆっくりと戸を開いた。
「…探しましたよ。」
三津の姿を見つけたのに安心感なんて微塵も感じない。
それどころか湧き出て来るのは言葉にならない程の怒り。
納戸の中にいた三津は,狭い空間で身を縮め,両手で自らの口を塞いで声を押し殺し,大粒の涙を流していた。
背中が見えそうなぐらいに乱れた着物。
首筋には幾つもの赤い痣。
乱れた髪が涙で濡れた頬にへばりついている。
後ろに土方がいることなど全く気付いていない総司は真っすぐに三津のいる甘味屋へと向かう。
店の前で打ち水をする三津の姿を見つけて,
「三津さーんっ!」
大声で叫んで手を振るとそれに気付いた三津も柄杓を片手に大きく振った。
それを見ればもうまっしぐら。https://yvision.kz/post/952345 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202312140000/ https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/12/15/174149
「お久しぶりですね,どこの甘味屋に浮気してはったん?」
久々に会った大きな子供をくすりと笑ってからかった。
「浮気とは酷い言われようですね,私だって色々忙しい身なんですから。」
総司がむくれると,
「子供と遊ぶのに?」
にんまりと笑ってさらにからかう。
総司は心外だと不貞腐れて見せると三津はけらけら笑った。
「甘いもん食べて機嫌直して?」
ちょっと笑い過ぎたかなと思いながら首を傾げてふくれっ面を覗き込んだ。
総司は大きく息を吸って“もちろん!”と答えるつもりだったのだが,何かの気配に咄嗟に振り返り低く身構えて刀の柄に手をかけた。
「げっ…。」
振り返った先にいた人物に思わず心の声が漏れる。
「おいおい誰を斬ろうとしてんだ?総司。」
不敵な笑みを浮かべた土方が顎をさすりながら立っていた。
三津には一瞬何が起きたか分からなかった。
目の前の総司はさっきまで自分と話していたのに今は背を向けて,腰の刀に手をかけている。
呆気にとられて気付くのに遅れたが総司の向こう側にいる人物に三津の目が輝いた。
「壬生狼のお兄さん!」
会いたかった人物の登場に三津は大声を上げて,手にしていた柄杓も放り出して駆け寄った。
「元気そうじゃねぇか。」
土方は目を細め三津の頭をくしゃりと撫でた。
「すっかり!あれからずっと捜してたんですよ,今度こそお礼させて下さい!」
土方はそうかそうかと腹黒い笑みで頷いた。
「土方さん,お礼とは一体何の事でしょうか?」
土方の目の奥が不気味に光ったのを総司は見逃さなかった。
腹黒い笑みに負けず劣らず,こちらも純粋さの欠片もない笑みで詰め寄った。
「土方さんか,沖田さんの知り合いやったんやね!じゃ沖田さんも壬生狼なん?
まぁいっか,立ち話もなんですからどうぞどうぞ!」
ようやく見つけた恩人に三津は嬉々として,二人店内に押し込んだ。
『私の憩いの場に鬼が…。』
総司は胸騒ぎを感じながら土方と肩を並べて暖簾をくぐった。席に着くなり土方は功助とトキから丁重にもてなされた。
甘味が大好きな自分より土方の方が持て囃されて面白くない。
総司は卓上に肘をつき,むすっとして眺めながらお茶を啜った。
いつもは好青年の総司でも今はお行儀が悪いだなんて気にしてられない。
「機嫌直して?」
横から三津の顔が割り込んできた。
それから目の前には葛きりやら粒餡がたっぷり乗った団子やらがずらりと並ぶ。
「……こんなに頼んでませんよ?」
二人分にしては多すぎる。それに土方は食べないだろう。
じゃあ独り占めだと思えば顔は緩んでしまう。
『私って単純…。』
そんな自分が悲しく思えたが,三津はにこにこと笑ってくれている。
きっと残さず食べてと言ってるに違いない。
では遠慮なくと手を合わせて,まずは団子から口に頬張った。
総司の機嫌は持ち直したものの予定外の珍客,土方はと言うと相変わらず功助とトキからお礼をと言い寄られている。
『あーあ悪い顔してる。』
その人に関わるのはおよしなさいよと言いたい所だが,事情がいまいち掴めない。
「一体何のお礼がしたいんですか?」
三津にそっと耳打ちをすると,それはねと三津も総司の耳元に顔を寄せた。
「この前私がお世話になってんよ。
道端で目眩起こして動けんくなった所をおぶってここまで連れて帰って来てくれてん。」
優しいでしょ?と微笑んで,その時土方が名乗らずに帰ってしまいお礼が出来ずにいた事を囁いた。
「それでお礼を…。」
「そう,壬生狼の人ってのは分かってんけどそれ以外手掛かりなくて。
沖田さんと知り合いやったやなんて世間って狭いなぁ。」
三津は嬉々として笑っているが総司の胸の内は複雑だ。
穏やかな笑みは瞬時に悪戯っぽいものに変わった。
「ホンマに一言多いですよね。」
「誉めてるんだけど?そのままが一番だって。
分かり易いから。」
『その一言が余計だって…。』酒に満たされた徳利を手にしたままで上の空。
思い浮かべるのはいつもと違った三津の姿。
「桂はん考え事ですか?」
幾松の甘い声に桂の肩がぴくりと反応した。
そして酒を一口含むとうっすらと笑みを浮かべる。
「ここに来る途中稔麿に会ったんだ。」 https://debsy.usite.pro/blog/2023-12-20-1 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-74.html https://william-l.cocolog-nifty.com/blog/2023/12/post-cff460.html
「一緒に来はったら良かったのに。」
幾松が徳利を傾けて猪口に酒を注ぎ,それで?と話の続きを求めた。
「三津さんを連れてたんだ。」
いつもと違う雰囲気を纏って大人びた三津を。
そんな彼女を連れていたのが吉田だった。
思いがけない組み合わせに不覚にも動揺してしまった。
「お三津さん?
あぁ!桂さんのここ手当てしはった子。」
幾松は左腕の傷があるあたりを人差し指でわざと押した。
もう痛くないよと桂は笑って酒を流し込んだ。
「吉田さんに嫉妬してはるん?
珍しく顔にそう書いてはる。」
桂にしなだれかかり,華奢な指先はその頬に触れた。
「最近はずっとそのお三津さんの話ばっかりですもん。
何か違う感情をお持ちでしょ?」
幾松はくすりと妖艶な笑みで桂の核心に迫ろうとしていた。
「そうだったかな?
それより稔麿が三津さんと知り合いだなんて知らなかったよ。」
頭を掻きながらとぼけた顔をしてみせた。
「だから桂はんが嬉しそうにお三津さんの話しはったんでしょ?吉田さんや藩邸の人らに。」
幾松は聞かされた私の身にもなってよとぷっくり頬を膨らませた。
「おや,私は三津さんの話をする時そんな顔をしていたのかい?」
そもそも三津の話をそんなにした覚えもないのだがと苦笑した。
「それで吉田さんと一緒やったのが気に入らないんですか?」
『全く男って奴は…。』
幾松も段々呆れてきた。
すぐに若い娘に目移りするんだから。
わざと拗ねて嫉妬をちらつかせて上目で桂を見つめる。
『私に会いに来る時ぐらいお三津さんを忘れて来てくれへんのかしら。』
いつもそう思うが今日改めて気付いた。
こんな桂は初めてだ。
それだけ三津には特別な想いがあるらしい。
「一緒にいたのにも驚いたけどそれより驚いたのは三津さんがいつもと違って着飾ってた。
気がある人の為にはやはり着飾るものかい?」
「女子なら誰でもそうやと思いますえ?
私かてそうやないですか。」
いつも私の何処見てるの?と桂の頬をぎゅっと摘んだ。幾松を怒らせてしまった事をそこそこ反省しながら夜道を歩く。
『また壬生狼に斬られたら手当てしてくれるだろか。』
なんて考えてしまう自分は末期だと可笑しくなる。
『あぁそうだ。縁談の話も聞かなければ。』
吉田といたところを見れば上手く断ったのは予測がつくけれど会う口実が必要だ。
屋敷に戻れば縁側に腰を掛け手酌酒で月を眺める吉田の姿が目に入った。
「お帰りなさい一杯どうですか?」
吉田は一人だと言うのにお猪口はもう一つ用意されている。
自分の帰りを待っていたとしか思えない。
「では少しだけ。」
吉田の隣に腰を下ろすとご丁寧に用意されていた猪口を手に取り酌を受けた。
「帰りを待ってまでも話したい事でもあるのかい?」
皮肉ったような言い方に吉田の口元は緩んだ。
「嫌だな私は幕府の連中の情報が聞きたいだけですよ。
桂さんの方こそ聞きたい事がお有りで?」
『私とした事が墓穴を掘ったか…。』
喉を鳴らして笑う吉田を横目に一気に酒を飲み干した。
これでは三津に気があるのが見え見えではないか。
「稔麿こそ何か得たものは無いのかい?」
平静を装って手酌を始めた。
「そうですね。
三津が人捜しをしていてその相手が壬生狼という事ぐらいでしょうか。」
吉田は首を傾げ考える素振りをして思い出したと口を開いた。
「壬生狼を?」
また何でそんな奴らを三津が捜しているんだ。
思わぬ情報に桂は注ぐ酒を猪口から溢れさせてしまった。
「桂さん溢れてますよ。」
こんな桂は見たことない。
こうなれば吉田のにやにやも止まらない。
「町で倒れた三津を壬生狼が背負って店まで送り届けたって話しで,三津は壬生狼にお礼がしたいそうです。」
「そうか……。桜之丞とやらは、果報者だな」
──お歌。本当に心優しく聡明に育ったな。
お転婆だったあの女子が、今や既婚者の証である丸髷を結っている。直に子を産み、良き母となっていくのだろう。
桜司郎は目を細めた。https://lefuz.pixnet.net/blog/post/120977959 https://janessa.e-monsite.com/blog/--88.html https://www.evernote.com/shard/s330/sh/3ac6ae3e-9167-ec8d-7bfc-0f4d3beee17c/t02Ui5SmE5GKLc5we1oq1ddP3c1hj4MKw22qlFMeCaaQgkN9A5gmyDEdwg その顔はどこか切なく歪んでいる。
「…………だが、死んでいるとはいえ、他の男の墓守りをしているというのは婿殿に悪いのではないか。もう来ぬ方が良い」
「それは…………ッ。そういう訳には参りませぬ。これが、せめてもののなのです……!」
その言葉に眉を寄せた。近くに止まっている烏が一鳴きする。
「贖罪…………?」
「兄さんは…………歌のせいで亡くなられたのです。歌が、お花の稽古へ向かったばかりに……」
瞳を潤ませた歌が呟くと、地面に落ちている線香の匂いが桜司郎の鼻腔を掠めた。
その瞬間、脳裏にはパチパチと火花を散らしながら燃え盛る炎の光景が過ぎる。火事に便乗して、強盗や拐かしが横行していた頃だった。
丁度歌が生け花の稽古へ向かった町で小火が起こり、たちまち燃え広がったのだ。向かったそこで、風体の悪い男どもに連れ去られそうになっている歌を見付け、夢中で刀を抜いたが煙の中を戦い抜くことが出来なかったのである。
何とか歌だけを逃がし、自身は深手のために動けず、瓦礫の下敷きとなって死を迎えた。
非業の死を受け止められなかったのは、己だけではない。跡取りが消えた榊の家は断絶され、藤は失意のままに江戸を出た。親しき友の松陰は過激な行動へと出るようになった。そして、歌は自分のせいだと責めるようになり、墓前で泣き崩れる日々を過ごしていた。
──そうか、そうだ……。がもう一度生まれ変わりたいと願った理由が分かった。「兄さんが、斬られた時……恐ろしゅうてたまりませんでした。助けを呼ぶことも出来たはずなのに、歌は……歌は…………ッ」
黒曜石の如く澄んだ瞳からは、ぽろりと透き通った雫が零れ落ちる。
すると、その頬に仄かな温もりが添えられた。剣だこで固くなった指先が、目元をそっとなぞる。
「……桜司郎、さん…………?」
その行動に、歌は驚いたように目を丸くした。
サア……と吹いた風が木々を揺らす。桜司郎は口角を上げた。桜之丞なら、と言葉を続ける。
「──"兄が、妹を守るのは当然のこと。もう気にするな。十分に伝わった故、これ以上泣かなくて良い"…………そのように、言うのではないか?」
酷く優しい視線に貫かれ、無意識のうちに桜司郎と桜之丞の輪郭が重なって見えたのだろう。あの頃と同じ、幼子のように歌はみるみる顔を歪めた。
「すみませぬ、すみませぬ……ッ。今だけ……今だけは、貴方様を桜之丞兄さんとお呼びしても宜しいでしょうか……ッ」
その問い掛けに、桜司郎は小さく頷く。
「兄さ、桜之丞兄さんッ!ごめんなさい……ッ!」
本当は声を荒らげて泣きたかったのかも知れない。だが季節が花の色を変えていくように、時の流れは彼女を淑女へと変えていた。袖口で顔を覆い、さめざめと涙を流している。
もう夫の居る身であるから、震える肩を抱き寄せることは出来ない。桜司郎は何かを堪えるように天を仰いだ。
このようにも泣きたい気持ちだと言うのに、胸のつかえが取れたかのように、不思議と晴れ晴れしかった。
──私は、悲しみに暮れる彼女を解放してやりたいと思っていたのだな。これでもう後悔は無い……。
何とか朝餉を流し込んだ後、桜司郎は一人で釜屋を出た。久々の江戸の街並みに感慨深さを覚えながら、あれこれと目で追いつつも先を急ぐ。
まだここまで戦の気配が迫っていないからか、何となく活気すら感じられた。少なくとも、幕府軍が薩長に負けて逃げ帰ってきたとは思えぬほどである。
幕府軍が負けたことが、徳川の世の終焉を告げるものだとは露も思っていないのかもしれない。
それが少し羨ましかった。
それから一刻半は歩いただろう。https://ameblo.jp/freelance12/entry-12830595067.html https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post502260807// https://www.bloglovin.com/@freelancer10/12244931 懐かしき昌平黌の前を通れば、参道が見えてきた。
石段を登り、参詣を済ませると暫く境内に佇む。
──ここの景色は変わらない。幼き頃からずっとそのままだ。
込み上げるものを感じながら、空を見上げた。白い雲が穏やかに流れている。先日までは業火に焼かれていたというのに、その気配は微塵も感じさせない。
「母上…………ようやく江戸へ帰って参りました」
自然とその言葉が漏れ出た。以前に隊士徴募で来た時はまだ桜之丞としての自覚がなかったが、今は違う。
命を落としてから二十年あまりの時が過ぎていた。再びこうして思い入れのある場所に立てるのは、まさに神仏からの贈り物だろう。
だが、このまま生き続けることには疑問があった。刀の妖力に縋ってまで、もう一度会いたいと願ったはこの世になく、唯一血を分けた母すらも看取ることは叶わなかった。を犠牲にしたことへの罪悪感だけが残っている。
ぼんやりとしているせいか、肩を叩かれるまで誰かが近付いていることに気が付かなかった。
「桜之丞兄!奇遇だなァ。やっぱし、江戸に帰ってきたらココに来るよなッ」
「か、釜次郎ッ!」
突然の榎本の出現に、飛び上がるほどに驚いてみせる。
「そこまで驚くかえ?もう参詣が終わったンなら、家に寄って行けよ。母上も喜ぶぜ」
「……い、いや。それよりも、行きたい場所があるんだ──」 桜司郎の要望に沿って足を運んだところは、墓場だった。
見下ろした先には小さな墓石が立っている。苔むしていると思いきや、存外綺麗に手入れがされていた。
「……自分の墓の前に立つなんて、変な気がする」
「普通はそうだわなァ。俺ァ、ちょっくら近くの茶屋で一服してくるぜ。思うところもあるだろうから、ゆっくりしてくんな」
桜司郎はその言葉に頷く。そして膝を折ると、黙ってそれを見つめる。
近くに植えてある柳が揺れる。まだまだ冷たい風が髪を撫でた。
その時、背後で何かを落とす音が聞こえる。
「釜次郎……?」
戻ってきたのかと振り向いた。すると、そこに立っていた人物を見て息を飲む。
「お、桜之丞兄さん…………ッ」
「お歌…………」
大きな目を見開き、涙を浮かべていたのは歌だった。手にしていた手ぬぐいや水桶も全て足元に転がっている。着物の裾が濡れていたが、それすら気にならないと言わんばかりだ。
返事をしてから、ハッとしたように桜司郎は立ち上がる。
「い、いや……私は桜之丞ではなく、桜司郎と──」
動揺を隠すように、落ちているそれらを拾い集めては歌へと渡した。
それに対して歌は何かを言いたそうに、口元を小さく動かす。けれどもそれを飲み込んでは、困ったように微笑んだ。
「…………そうでございました。貴方様は桜司郎さんでしたね。一度のみならず、二度も間違えてしまい申し訳ございません」
「……いや……、気に召されぬな。それだけ似ているのだろう。……お歌は、どうして此処へ?」
桜司郎は動揺のあまり、話し方がいつもと異なっている。だが、それすら気付かずに話し続けた。
「兄さんのお墓を磨きに参ったのです。歌には、これくらいしか出来ませんから……」
それを聞くなり、左胸の痣が締め付けられる。健気な思いにどうしようもなく感情が掻き立てられた。