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「そうか……。桜之丞とやらは、果報者だな」
──お歌。本当に心優しく聡明に育ったな。
お転婆だったあの女子が、今や既婚者の証である丸髷を結っている。直に子を産み、良き母となっていくのだろう。
桜司郎は目を細めた。https://lefuz.pixnet.net/blog/post/120977959 https://janessa.e-monsite.com/blog/--88.html https://www.evernote.com/shard/s330/sh/3ac6ae3e-9167-ec8d-7bfc-0f4d3beee17c/t02Ui5SmE5GKLc5we1oq1ddP3c1hj4MKw22qlFMeCaaQgkN9A5gmyDEdwg その顔はどこか切なく歪んでいる。
「…………だが、死んでいるとはいえ、他の男の墓守りをしているというのは婿殿に悪いのではないか。もう来ぬ方が良い」
「それは…………ッ。そういう訳には参りませぬ。これが、せめてもののなのです……!」
その言葉に眉を寄せた。近くに止まっている烏が一鳴きする。
「贖罪…………?」
「兄さんは…………歌のせいで亡くなられたのです。歌が、お花の稽古へ向かったばかりに……」
瞳を潤ませた歌が呟くと、地面に落ちている線香の匂いが桜司郎の鼻腔を掠めた。
その瞬間、脳裏にはパチパチと火花を散らしながら燃え盛る炎の光景が過ぎる。火事に便乗して、強盗や拐かしが横行していた頃だった。
丁度歌が生け花の稽古へ向かった町で小火が起こり、たちまち燃え広がったのだ。向かったそこで、風体の悪い男どもに連れ去られそうになっている歌を見付け、夢中で刀を抜いたが煙の中を戦い抜くことが出来なかったのである。
何とか歌だけを逃がし、自身は深手のために動けず、瓦礫の下敷きとなって死を迎えた。
非業の死を受け止められなかったのは、己だけではない。跡取りが消えた榊の家は断絶され、藤は失意のままに江戸を出た。親しき友の松陰は過激な行動へと出るようになった。そして、歌は自分のせいだと責めるようになり、墓前で泣き崩れる日々を過ごしていた。
──そうか、そうだ……。がもう一度生まれ変わりたいと願った理由が分かった。「兄さんが、斬られた時……恐ろしゅうてたまりませんでした。助けを呼ぶことも出来たはずなのに、歌は……歌は…………ッ」
黒曜石の如く澄んだ瞳からは、ぽろりと透き通った雫が零れ落ちる。
すると、その頬に仄かな温もりが添えられた。剣だこで固くなった指先が、目元をそっとなぞる。
「……桜司郎、さん…………?」
その行動に、歌は驚いたように目を丸くした。
サア……と吹いた風が木々を揺らす。桜司郎は口角を上げた。桜之丞なら、と言葉を続ける。
「──"兄が、妹を守るのは当然のこと。もう気にするな。十分に伝わった故、これ以上泣かなくて良い"…………そのように、言うのではないか?」
酷く優しい視線に貫かれ、無意識のうちに桜司郎と桜之丞の輪郭が重なって見えたのだろう。あの頃と同じ、幼子のように歌はみるみる顔を歪めた。
「すみませぬ、すみませぬ……ッ。今だけ……今だけは、貴方様を桜之丞兄さんとお呼びしても宜しいでしょうか……ッ」
その問い掛けに、桜司郎は小さく頷く。
「兄さ、桜之丞兄さんッ!ごめんなさい……ッ!」
本当は声を荒らげて泣きたかったのかも知れない。だが季節が花の色を変えていくように、時の流れは彼女を淑女へと変えていた。袖口で顔を覆い、さめざめと涙を流している。
もう夫の居る身であるから、震える肩を抱き寄せることは出来ない。桜司郎は何かを堪えるように天を仰いだ。
このようにも泣きたい気持ちだと言うのに、胸のつかえが取れたかのように、不思議と晴れ晴れしかった。
──私は、悲しみに暮れる彼女を解放してやりたいと思っていたのだな。これでもう後悔は無い……。