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やっぱり歩く問題児でしかないのか。三津は大きな溜息をついて肩を落とした。
「言葉にしても伝わらんし,話し合っても交わらんってどうしたらいいんですかね……。」
「あいつらはもう相手にしちゃいけん……。」
「いえ,小五郎さんです……。」
その名前に何故か一之助がドキッとした。いきなりなんでそこに話が飛ぶのか理解できなくて,黙って三津が何か喋るのを待った。
「私さっき一之助さんに偉そうにあの子らの話も聞かんと……って言いましたけど,小五郎さんの言い分なんて何一つ聞かなかったんですよね。
会った時も情に流されんと突き放す事しか考えてなくて……。」
「それは桂様の自業自得やろ。それだけ三津さんに酷いことしたから……。」
三津はそれは違うと否定した。https://carinadarling.livedoor.blog/archives/4774065.html
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「そこもお互い様なんです。お互いに話し合いも思い遣る気持ちも足りんかったんです。
それに歩み寄ってきた小五郎さんを私は突っぱねてここに居ます。私がちゃんと向き合えば少しは違ったんかもしれません……。」
『それでさっき一番悪いのは私って言ったんか……。』
話が繋がって一之助は納得した。
「気持ちの整理の為に散歩しちょったん?」
「はい。もう結論は出てるんですけど,何か難しく考え過ぎちゃって。」
「その結論とは……。」
「九一さんと一緒になるってやっと決心ついたんです。」
あぁ,やっぱりか。分かってはいたが少し落胆した。それでも一之助は顔色一つ変えずに平静を装った。
「まぁ妥当やな。フサちゃんもそれを喜ぶやろ。」
「そうですね。でも小五郎さんとの復縁望む人も何人かいて……あっちの事をもっと考えてあげて欲しいって。九一さんにも考える時間は取ってもいいって言われちゃって。」
だから思い返していたら混乱してしまった。苦笑しながら頬を掻いた。
「入江さんも考え直せって?そう言っとるそ?」
それは理解し難いと顔を顰めた。好きな相手と夫婦になれるのに恋敵の肩を持つような事をするのか。
「九一さん変わってますからね。何か考えがあっての事やと思いますけど。」
「そんな人の嫁になれるの三津さんしかおらんのやろな。」
「それが小五郎さんの時にも言われるんですよ。あの人を扱えるのは私だけだそうです。
でも……私には荷が重過ぎます。」
そう言ってへらへら笑った。心の中で幾松の言葉が反芻する。
“お三津ちゃん最初からそうやったやん”
『私は最初から小五郎さんに対する気持ちが中途半端やったんかなぁ……。』
桂は常に不安だったのだろうか。いつも自分に自信がなくて,桂に対して引け目を感じて,どんなに愛されてると実感しても劣等感は拭えてなかった。
だから何かあれば身を引かねばと言う思考は頭の片隅にはあった。
“そんなあっさり離れられたら相手は不安やと思うけど”
幾松の言う通りだ。
『小五郎さんはいつも不安やったんかな……。何食わぬ顔してはったけどホンマはずっと不安やったんかな……。』
“三津に求められる男になる。それまで見捨てないで”
この台詞は今でも鮮明に覚えている。そう言わせてしまった自分に嫌気が差したぐらいだから。
桂は自分の元から去る事をずっと恐れていたのかもしれない。
「はぁー……私全然アカン人間やっ!」
「何で!?」
突然隣りで深い溜息をついて発狂され,一之助は気は確かかと三津の背中をとんとん叩いた。
「いや……色々自分のアカン部分思い出して消えたくなっただけです……。」
あまりにもがっくり肩を落として項垂れるから一之助は余計な事は言うまいと寄り添うだけに徹した。自分が口を開けばろくな事が無い。
家まで辿り着いたはいいが,浮かない顔と言うか,悲壮感に満ちた表情をされたままでは放ってはおけない。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。たださっきのあの子達の件は黙っててもらえます?」
そこでようやく困ったようにだが笑みを見せた。
「分かった。黙っとく。その代わりもし怪我しちょるのに気付いたらすぐ言って。」
それは約束すると笑顔で頷いた。今はそっとしておいてと言われたから,後ろ髪を引かれつつも一之助はお店に帰った。
「何なん?自分は傍におっても迷惑やない特別やとでも思っちょるん?あんたいつもそうやってうちらの事見下しとるんやろ!」
「じゃなくて,想うのは自由やと思いますけど一之助さんの気持ち考えた事あります?」
「うるさい!ぽっと現れて気に入られちょるからって!」
馬鹿にするのもいい加減にしろと思い切り三津の体を突き飛ばした。三津は尻もちをついて手のひらを少し擦りむいた。
「そうやなくて……。」 https://carinadarling.wordpress.com/2024/04/11/%e4%b8%89%e6%b4%a5%e3%81%ae%e5%bc%95%e3%81%8d%e6%94%a3%e3%81%a3%e3%81%9f%e9%a1%94%e3%82%92%e8%a6%8b%e3%81%a6/ https://mariaa.coslife.net/Entry/4/ https://andersonking.anime-navi.net/Entry/4/
「うるさい!さっさと出て行き!余所者!」
力いっぱい引っ叩いた。三人で三津を囲み込んで日頃の恨みと言わんばかりに手を上げる。
『何で話し合うって難しいんかな……。でも今回は私が悪いか……。』
ただでさえ自分を敵視してる相手なのに言葉を選ばなかった。単刀直入に言った方が伝わると思ったが神経を逆撫でしただけだった。
全身に痛みを感じながら蹲り,何とか顔だけは守ろうとした。じゃないと仕事に支障が出る。そこだけは冷静に考えていた。
「お前ら!何しとるん!!」
その声に三人の肩がビクッと跳ねた。声の主を確認して真っ青な顔をした三人は一目散に逃げ出した。
「あ,一之助さん。」まずいところを見られたな。どうにか誤魔化したくて,自分に駆け寄ってくる一之助にへらへら笑ってこんにちはと声をかけた。
「馬鹿か!何がこんにちはや!大丈夫か!?立てるか!?」
座り込んだままの三津の体を支えながら着物についた土埃を優しく払った。
「大丈夫ですよ。女の子の力って知れてますから。それより何してるんですか?」
「それよりやないっ!馬鹿っ!もぉ……心臓止まるかと思った……。またあいつら言いがかりつけてきたんか?」
一之助はちょっとごめんと断って袖を捲って腕に傷はないか確認した。足も確認したいとこだが流石に裾は捲れなかった。
「違いますよ。私が怒らせる事言っちゃったんです。駄目ですよ?ちゃんと相手の話も聞かんと……。」
そうは言うものの,三津はこれは自分が言えた事じゃないなと反省した。
自分は桂の話を聞かなかったじゃないか。
「そうやとしても三人で一人に手を上げる方が悪いに決まっちょる。」
『小五郎さんもこうやって年上の癖に私を泣かせた,傷付けたって悪者にされたんやろか……。』
「悪いのはお互い様です……。でも今一番悪いのは私っ……!」
三津はぼろぼろ涙を流した。どうしたらいいか分からない一之助は背を向けて三津の前に屈んだ。
「とりあえず帰ろ。乗って。」
「歩けます……。」
「いけん。怪我しちょるかもしれん。乗らんかったら横抱きするで。」
実際恥ずかしくてそんな事は出来ない。三津もそれは嫌だった。
「見られたらお互い面倒やと思うんで肩を貸してもらえたら……。」
お互いそれで合意して三津は家まで送ってもらう事にした。
「一之助さんは何でここに居るんですか?」
「しずさんが三津さんにおはぎ持ってっちゃりって言うけぇ家に行ったんやけど。」
美味しいあれだぞと手に持ってる包みをちらつかせた。
留守だったから散歩でもしているのかと思い,一緒に初詣に行った帰りに歩いた道を辿っていたらあの現場に出くわした。
「ご迷惑おかけしてます……。」
「何であぁなったん?」
女子が寄って集って殴る蹴るしてるのは初めて見たと一之助は完全に引いていた。
「私が一之助さんに付き纏うの迷惑ですって言ったんで。」
完全に余計なお世話を焼いたんだと説明した。そもそも相手にしたのが間違いだった。
「ごめん,それは俺が言わにゃいけん事やのに……。」
一之助はそう言うがそれも火に油だと思った。あの子達は三津を敵視している。一之助がそう言ったとしても,三津に言わされてると思うに違いない。
三津はこっ恥ずかしくなって走って逃げた。
「木戸さん……また名字に逆戻りじゃないか。」
小五郎さんと呼んでもらうまでにもかなりの時間を要したのにそれがまた繰り返される。
「受け入れようとしてくれちょるんやけぇええやないですか。」
入江が小気味いいと喉を鳴らす。桂の小さな不幸を嬉しそうに笑う。
「そう言う九一こそあの戦で死んだ事になってるんだからもうその名を捨てて別の人間としてやり直したらどうだ?」
桂は新しく別人として戸籍を作り直せと言い出した。https://carinadarling.wordpress.com/2024/04/07/%e5%be%8c%e3%82%8d%e6%89%8b%e3%81%a7%e9%9a%9c%e5%ad%90%e3%82%92%e9%96%89%e3%82%81%e3%81%9f%e5%85%a5%e6%b1%9f%e3%81%af%e4%b8%89/ https://domoto63.blog.shinobi.jp/Entry/28/ http://eugenia22.eklablog.net/-a215651541
「そのつもりではいますよ?でもそれは三津が私と結婚すると言ってくれた時なんです。その時に入江九一を捨てて名前変えて二人で新しくやり直すんです。」
「その手続きなら私に任せちょき。」
文が萩で暮らせるように手配すると入江に乗っかった。文が言うと現実味が増すから冗談とは思えない。
入江にも同じ思いをさせようと思ったのに逆に追い込まれてしまった。
「お前なんかに三津はやらん。」
「木戸様それは完全に父親が言う言葉ですね。」
恋仲どころか三津の父親になってしまった。みんなが自分の味方ではないのは百も承知だが,既に精神的に参っているから大勢で責めないで欲しい。
そこへ夕餉を持って戻って来た三津達と一緒に伊藤も帰って来た。
「お待たせしました。沢山食べてください。」
フサがにこにこしながらおにぎりの乗った皿を差し出した。それと同時に伊藤も風呂敷包みを突き出した。
「着替え適当に取って来ました。それと桶屋さんが荷物全部こっちに運んだ方がええんやないかって笑ってましたよ。」
「ありがとう。流石伊藤君だね。晋作に行かせると絶対着替えなんか持って来てくれないからね。
まぁ出来たらここに居たいけど空き部屋がない。部屋に篭って書物をする日もあるから難しいね。」
だからたまに泊まりに来る程度に留めると笑いながら皿に乗ったおにぎりに手を伸ばした。
選んだおにぎりを美味しそうに食べる姿を見てフサは満面の笑みを浮かべた。
「木戸様の愛は本物ですね。」
「だろ?すぐに分かったよ。この一つだけ三津が握ったんだろ?」
三津も嬉しそうに笑って頷いた。
「間違える訳がない。私はこのおにぎりに命を繋いでもらったんだ。」
桂と三津は周りなど目に入ってないぐらいの雰囲気で微笑みあった。
「その空気が本来の二人の空気なんね。ほれ,邪魔しちゃいけんけぇみんな部屋に戻り。入江さんは赤禰さんとこにでも行っとき。」
文がぱんぱんと手を叩いて三津達を二人きりにするように促した。みんなは重い腰を上げてぞろぞろ引き上げた。
入江は去り際に“布団入れ替えとくんでごゆっくりどうぞ”とにやっと笑った。
ここ最近は呑んで寝て起きたら桂が横にいる。意識のある状態で一緒に寝床に入るのはいつぶりだろうか。三津は変な緊張状態に陥った。
桂が湯浴みに行っている間,三津は布団の上に正座で戻って来るのを待った。
「三津入るよ。」
声をかけて障子を開けた桂は布団の上で背筋を伸ばして正座している三津を笑った。
「何を今更緊張してるの?昔に戻ったみたいで嬉しいけど。」
「しばらく距離を置いたせいでどうしていたか思い出せません……。」
「そう。思い出させてあげたいところだけど約束は守るよ。君が気持ちの整理がつくまでは何もしない。ゆっくり寝よう。」
桂が布団に入ってから三津も同じように横になった。
「三津,手を繋いでいてもらえないか?」
桂が布団の中から手を伸ばすと三津も手を伸ばしてその手を握った。
向かい合って手を握って見つめ合って,三津の心臓は久しぶりに早鐘を打った。
広間に近い場所を掃除しながら聞き耳を立てる。面倒事に巻き込まれる覚悟を決めたのに桂はそうはさせたくないようで状況を教えてくれない。
だから三津は自分で情報を集める事にした。今もその真っ最中。
「全然進展しない話をよく長々出来ますよね。」
「いやいや入江さんこそこんなとこおらんと話し合い混じらなアカンでしょ。」
何故か入江は三津の隣りで掃除を手伝っている。https://carinadarlingg786.blox.ua/2024/03/14/%ef%bd%a2%e9%80%a3%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%8b%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%99%82%e6%b1%a0%e7%94%b0/ https://carinadarling.livedoor.blog/archives/4528384.html http://mathewanderson786.rentafree.net/entry/1031732
「後で玄瑞から聞くんでいいんです。それに来島さん絶対折れないし。」
絶対折れないのはここ数日で分かった。池田屋での騒動の後,桂と乃美が頭を悩ませていた急進派がより過激になった。
桂と久坂がどうにか抑えようと説得を試みる相手,急進派の来島又兵衛こそ今一番厄介な相手だった。
「話にならんっ!」
怒鳴り声と共に勢い良く障子が開いて派手な足音を立てて来島が出てくる。これも一連のお決まりの流れだった。
「いつまで続けるんですかね。」
「ねっ。」
三津と入江は瞬時に身を隠してひそひそと話した。
「君達もいつまでそんな間者紛いな遊びをするんだい?」
不機嫌な桂の顔がぬっと目の前に現れて二人はへへっと笑みを浮かべた。
「九一,お前も参加しろよ……。」
「だって私じゃ説得出来ないし。せめて晋作が居たらねぇ……。」
「高杉さんなら出来るんです?」
桂と久坂が苦戦する相手を高杉が?そんな顔をしていると久坂が疲れきった笑顔で三津を見た。
「晋作と来島さんは馬が合うみたいでね。」
「なるほど曲者ですね。兄上お疲れ様です。」
少しやつれたのでは?と痩けたように見える頬にそっと手を添えた。あんな人物を毎度相手しているならさぞかし心労も溜まっているだろう。
「あーこれだけで癒やされるわ……。」
久坂が三津の手に手を重ねると不機嫌な咳払いが二人を引き裂いた。これは面倒臭い展開になったなと三津は恐る恐る桂を見上げた。
「私も疲れている。」
「はい……お疲れ様です……。」
なんとも子供じみた嫉妬を見せてきたもんだと内心思ったが,連日の論争を聞いてる限り精神的に参ってるのは間違いない。
「ホンマにお疲れ様です。」
三津は精一杯背伸びをして桂の頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。
桂の時が一瞬止まった。今までに三津がそんな事をしてくれた事があっただろうか。
「三津っ!」
桂が抱きつこうとしたのを入江が間に入ってしれっと阻止した。
「いっそ晋作呼び寄せます?事情が事情なので謹慎解くのは可能では?」
「俺も考えたが,あっちに連絡よこして返事を待って仮に許可が下りたとして晋作がこっちに来るまでにどれだけ時間がかかるか……。」
久坂は眉間を指で押さえた。
「確かに一番話が通じるのは高杉かもしれん。だが今回は身内が……吉田が殺られてる分高杉でも説得は難しいと思うがな……。」
『乃美さんでも高杉さんやないとって思うんやったら,めっちゃ難しいんやない?』
それと同時に吉田の存在の大きさも再認識させられた。そんな人に守られたのだからどうにか恩を返したい。何かしなければと変な責任感に駆られた。
かと言って何の面識もないただの小娘が面と向かって来島に何か言える立場でもない。三津は自分の無力さに辟易した。
「何故貴女がそんな顔をするのでしょう?」
気が付けば入江が目線を合わせるように腰を落として顔を覗き込んでいた。
「ん?何が?」
そんな顔とは?変な顔でもしてたのかと自分で頬をむにむに揉んでは引っ張った。
「えっ何その頬めっちゃ伸びる。」
入江が新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに目を輝かせて手を伸ばした。
桂はムスッとした顔で腕組みをして三津を見下ろした。
「ごっごめっごめんなっ……。」
「ごめんな?」
吃って上手く喋れなくなった三津に怒った顔をぐっと寄せて言おうとしている謝罪の言葉を促す。
「さい……。」
三津は体をのけ反らせながら最後の二語を言い終えた。それを聞いた桂は小さく息をついて首を横に振った。
「いや,私の方こそ悪かった。何の説明もなしに君を追い出すような形になってしまった。
でも分かって欲しい。今回は本当に何も知らない方がいいんだ……。全てを知ってしまえば君は私達と同罪になってしまう。」
『これ伝えにわざわざ帰って来はったんや……。』http://eugenia22.eklablog.net/-a215536781 https://carinadarling.wordpress.com/2024/03/14/%ef%bd%a2%e4%b8%89%e6%b4%a5%ef%bc%8c%e6%9d%be%e7%94%b0%e3%81%95%e3%82%93%e3%82%84%e5%ae%ae%e9%83%a8/ https://mariaa.coslife.net/Entry/3/
心の底から心配で堪らないという表情をされてはこれ以上三津から言える事はない。だけど桂と生きていくと決めたから,もう甘えは許されない。それならば,
「同罪でいいのに。それぐらいの覚悟は私だって持ってます……。」
その返答を予想していた桂は困り顔で笑った。
「ご主人と女将に約束したんだ。君を守るって。だから……ね?」
言い出したらきかない三津の頑固さは一応理解している。それを抑えるのは功助とトキを出すのが一番だ。
「分かりました……。」
「ありがとう。すぐ解決出来るよう努力する。」
渋々了承するその顔もしばらくお預けかと思うと離れ難い。だがしかし戻らねばならない。
「ではもう行くよ。……帰って稔麿に罰を与えねばならんからな。」
穏やかになったと思われた顔はどす黒い笑みを浮かべた。
『仲間内で揉めてる場合ちゃうんじゃ……。』
とは思うものの,その揉め事を引き起こした張本人なだけに何も言えない。寧ろそんな揉め事を引き起こすなんて害でしかない。
「大人しくしてますね……。」
それが一番だ。三津が項垂れていると桂の温もりに包まれた。安心する香りに目を閉じた。
「うん,いい子で待ってなさい。」
桂は体を離して,額,頬それから口に触れるような口づけをしてから家を出た。三津も外に出て去り行く桂を見送った。
「お気をつけて……。」
三津は小さくなっていく背中にぽつりと呟いた。
桂も後ろ髪を引かれる思いで家を後にした。振り返りたくなるのを我慢した。
『そうだ……早く戻らねば……。』
早く戻って果たさねばならない。未だかつてない厳しい処断をせねばならない。
『おのれ今に見てろ稔麿!!』屋敷に駆け込んだ桂は真っ先に吉田の行方を探した。廊下で捕まえた藩士に広間に居ると情報を得て怒りに任せて襖を開けた。
「稔麿ぉ!!」
「何ですか騒々しい。」
胡座を掻いていた吉田はうんざりした顔で仁王立ちの桂を見上げた。
「今すぐ顔を洗え。さもなくばその口切り落としてやる。」
その場に乃美と久坂,入江も居たが今はそんな事などどうでもいい。
「嫌ですよ。まだ余韻があるんで。」
売られた喧嘩は買いますよと吉田は唇をぺろっと舌で舐めた。
「お前何したの……。」
何となく予想はつくけどと久坂が盛大に溜息をついた。今はそれどころじゃないのにやめてくれないかと心底嫌そうな顔をした。
「三津に口づけしやがった。私の目の前で。」
「やっぱりか。」
久坂は予想通り過ぎて驚きもしなかった。それよりも普段丁寧な口調の桂が汚い言葉遣いになってるのがちょっと面白かった。
「口づけたんじゃなくて吸ったんだけどね。」
「許さん。」
「は?前に言いましたよ?もう遠慮しないって。」
乃美と久坂は早くケリをつけてくれと冷ややかな目で二人を見ていたが入江は違った。じーっと吉田の顔を見つめていた。それからゆっくりと腰を上げて吉田に近付くとその顔面を両手で挟んだ。
「なっ何。」
嫌な予感がした。まさかと顔を引き攣らせる吉田に入江が迫った。
「何すんだ気色悪いっ!」
吉田は思いきり入江の腹に蹴りを入れて粟立った体を両腕で擦った。なかなかいい蹴りが入ったと腹を擦って笑う入江が不気味で仕方なかった。