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『…左様か』
『はい。されど何故に、御台様にお仕えの古沍様が本能寺などに…』
濃姫は城内にいるはずなのにと、侍女が首をっていると
『御小座敷であったな?』
『は、はい』
報春院は着物の裾をして、足早に部屋から出ていった。
『──古沍殿!』
報春院が御小座敷にやって来ると、侍女の報告通り、本能寺から逃げ戻った古沍が座敷の下座に控えて待っていた。
よほど逃げ出す時に余裕がなかったのか、荷物もなく身一つで、髪は乱れ、っている小袖も随分と泥で汚れている。
古沍は『 大方様… 』と憂い顔で平伏すると、その瞳にうっすら涙を浮かべた。
報春院は古沍の前に駆け寄ると
『よくぞ戻って参られた!よくぞ』https://rty4fp.webmepage.com/carina-cyril/blog https://suzanwines.blogspot.com/2024/10/blog-post_7.html http://jeffrey948.eklablog.com/-a216298901
とるような眼差しを向けた。
『御台様より…、姫様の為にも生き延びよと言われ、仕える身として恥ずかしきことと思いながらも……命辛々、戻って参った次第にございます』
『良いのじゃ、命あってこその物種じゃ。──して、信長殿は?お濃殿や齋の局は如何したのじゃ!?』
古沍は憂い顔を上げ、小さく首を横に振った。
『分かりませぬ…。私が本能寺を出た時には、まだ上様も御台様も、齋の局様も明智勢と闘うておられましたが…、その後どうなったのかは、私にも』
『では、謀反があったというのは間違いないことなのじゃな!?』
『…はい』
『変事が起こった時の様子は!? 信長殿やお濃殿が生き延びておられる可能はないのか!?』
『あまりにも急なことであった故、委細は分かりませぬが、明智様の兵は本能寺を取り囲む程に多く、
上様の手勢は僅か百人ほどにございました。 …あの状況を見た限りでは、とても持ちこたえられたとは…』
報春院はきつく目を伏せ、絶望に満ちた吐息を漏らした。
古沍はそっと上半身を起こし、懐に手を入れると
『…大方様、これを』
雑紙にくるまれた包みを報春院に差し出した。
『これは?』
『御台様が、姫様にお渡しするようにと申されて、最後に私にされたものにございます──』
御小座敷を退出した報春院は、その足で御台所の御座所を訪ねると、胡蝶とお菜津を奥の間へ移し、
先ほど古沍から預かった雑紙の包みを、胡蝶に手渡した。
胡蝶が恐る恐る包みを開けると、中から一束の美しい黒髪が現れた。
『古沍殿が持ち帰られた、お濃殿の
『母上様の…』
包みを握る胡蝶の右手が震える。
『侍女衆を逃がす際に、お濃殿が自らの御髪を切り落とされて、古沍殿に託されたそうな。そなたに渡すようにと』
『では…、では母上様は』
『まだ判然とはしておらぬが、思うに、本能寺にて信長殿と共に──』
『…そんなッ』
胡蝶の胸に突き刺すような痛みが走り、瞳から大粒の涙が溢れた。
濃姫ばかりではない。
父である信長も、兄の信忠も、そして許嫁であった蘭丸も、胡蝶はたった一夜にして多くの愛する人々を失ってしまったのである。
まだ十四歳であった胡蝶には、とても受け止められるような事実ではなかった。
胡蝶がらのお菜津の肩に顔を伏せ、小さなを漏らしていると
『失礼致しまする。御台様、よろしゅうございましょうか?』
部屋の前に侍女がやって来て、
「ご安心下さいませ。争っている内に腕やなどに浅傷を負わせてしまいましたが、あの百姓らは 生きておりまする」
「左様か──何よりじゃ」
「…ただ、こちらの兵が数名、死に絶えましてございます」
「……」
光秀は言葉を失い、やがてその瞳にじわりと涙をませた。
また自分のせいで仲間を死なせてしまった…。
何と罪深い存在なのだろうかと、光秀は自身を責め、そして恥じた。
戦のない世を目指しながらも、今の自分には、もう目の前の家臣すらも守ってやれないのだ。
「可哀想なことを…、済まないことを致した…」
涙ぐむ光秀は、せめて死した家臣たちの為に手を合わせてやりたいと思い、痛みに耐えながら上半身を起こした。
ところが、起き上がった途端に意識がとし、気が遠のいてゆく感覚に襲われた。
「殿!しっかりなさって下さいませ!」https://mypaper.pchome.com.tw/mathewanderson/post/1381849955 https://mathew.anime-voice.com/Entry/7/ https://mathew.cosplay-navi.com/Entry/7/
倒れそうになる主君の身体を抱きとめ、茂朝は叫んだ。
脇腹に受けた傷が致命的となったのか、穴の空いた風船のように光秀の全身から力が抜けてゆく。
光秀は薄く目を見開き、浅い呼吸を繰り返すと
「…茂朝…。儂は…もう駄目やも知れぬ…」
自身の死期を悟ったように呟いた。
「何をせになられまする! 死んではなりませぬ!死んではなりませぬぞ!」
必死の表情で訴える茂朝の、その腕を掴んで
「……茂朝、…頼みがある」
と、光秀は弱々しく告げる。
「自刃致す故、そなたに…、を頼みたいのだ」
「 !? 」
「…秀吉殿に首を差し出す覚悟であったが、…やはりこの首は、そなたらの手でり落としてもらいたい。 ──儂が信頼する、そなたたちの手で」
「し、しかし…」
「頼む」
主君の力強い願に、茂朝は涙を浮かべるものの、首を縦に振ることは出来なかった。
背後の家臣たちも光秀との別れを惜しみ、っている。
しかし光秀本人の思いは強く、最後の力を振り絞って上半身を起こすと、腰のしに手を伸ばした。
とする意識と闘いながら、光秀は刀を自分の前で弱々しく構える。
「…殿…」
最後まで武士であり続けようとする光秀の姿に心を動かされたのか、茂朝は静かに光秀のらに立つと、自らの太刀を抜いた。
もはや彼が光秀の為にしてあげられることは、それだけしかなかった。
光秀がろな瞳で、構えている刀の切っ先を見つめていると
『 ……何という光栄。帰蝶様、いらしてくれたのですね 』
本能寺襲撃の折に見た蒼白い蝶が、刀の上にとまったのである。
光秀の瞳にしか映らない、あの蝶が。
『 美濃へお帰りになったと思うておりましたが、この光秀の為に、待っていて下されたのですね── 』
蒼白な光秀の顔に、柔和な微笑が広がった。
『 帰蝶様、あなた様と信長様を殺めてしまった罪は、の命をもっていまする。
…故に一つだけ、願いを聞いて下さいませ。某は極楽へ行けるかどうか分かりませぬ故、某に代わってにお頼み下され。
“ 民たちがいつでも笑って暮らせるような、戦のないの時代を、いつか世にもたらして下さいませ ” …と 』
その願いさえ叶うのであれば、他にはもう何も望むことはない。
光秀は蝶に向かって、心の声で語りかけると、そっと両眼を伏せて
「…さらばじゃ」
と呟くなり、刀を握る手にぐっと力を込めて、自分の腹に突き刺した。
主君の背が苦しげに丸まってゆくのを見た茂朝は、涙を流しつつ太刀を振り上げて、断腸の思いでそれを光秀の首に目掛けて振り下ろした。
ヒュン…と、風を切る音が響いたのと同時に、あの蒼白い蝶は天空へと舞い上がっていった。
いつしか雨はやみ、灰色の雲の間から、
がった光秀は、家臣たちと共にひたすら前だけを見据えて進んで行く。
雨をにある本経寺という寺院の、裏手にあるに差しかかった。
「殿、お疲れにございましょう。が手綱を引いております故、少しおを休め下さいませ」
茂朝が気遣いがちに言うと
「何を言うておる。そなたたちの方こそ歩き通しで疲れたであろうに」
「いえ。某はまだ四十路です故、体力の方はまだまだ自信がございますので」
「何じゃ。そなた、儂を老人扱いするつもりか?」
「そ…そんな、滅相もないっ」
「ははは、冗談じゃ。そちの気遣い、嬉しく思うぞ」https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/23/ https://mathewanderson.ni-3.net/Entry/8/ https://carinaa.animegoe.com/Entry/8/
光秀は少年のようなな笑顔を浮かべて、家臣たちと小さく笑い合った。
こうして冗談を述べていると、いつもの帰りの道中と同じ感覚になる。
信長からの期待と圧力に心をすり減らしている時でも、こうして家臣たちと冗談を言い、笑い合っている時は心がんだ。
今もそうだ。
疲労と傷心、降り止まぬ雨に濡れて、身も心もぼろぼろであったが、彼らと笑い合っているだけで気持ちが安らぐ。
自分は一人きりではないのだと教えてくれる。
光秀は、最後まで自分に付いて来てくれたこの忠臣たちに、心の底から感謝しているのであった。
「──さぁ、少し急ごう。このままでは坂本の城に着くまでに風邪を引いてしまうぞ」
「──はい、殿」
光秀の言葉に茂朝たちが軽く頭を下げていた、その時だった。
「ぐぁ…ッ」
ふいに列の後方から、小さな断末魔のような声が響いたのである。
何事かと思って光秀や茂朝らが振り返ると、最後尾を歩いていた家臣の一人が、雨でぬかるんだ地面の上に倒れていた。
その家臣の背中には、長いが一本、深く突き刺さっている。
「 ! 」
それを見た光秀たちが、あっと驚きの表情を浮かべるやや
「落武者じゃー!落武者じゃー!!」
横の竹藪の中から、百姓と思わしき身なりの男たちが、それぞれ竹槍やを手に、慌ただしく一行の前に現れた。
光秀は彼らを目にするなり、この当時 盛んになっていた “ 落武者狩り ” の男たちであると確信した。
彼らはあっという間に光秀たちを取り囲むと
「俺たちの暮らしがいつまでたっても豊かにならねぇのは、おめぇら武士たちのせいだ!」
「武士なんぞ疫病神じゃ! 大人しゅうくたばれッ!」
と、怒声を上げながら襲いかかってきた。
「と、殿!お逃げをー!」
茂朝が声の限りに叫んだ、まさにその瞬間
「…ッ!!」
一本の竹槍が、ドッとい音を立てて馬上の光秀の脇腹を突いたのである。
光秀の満面がきつくんだのと同時に、彼は馬の背から崩れるように地に落ち、そのまま意識が遠のいていった──。
光秀が再びその眼を開いたのは、それから近く経ってからのことだった。
気が付いた時には、先ほどの竹藪ではなく、どこかの奥深い森の中にいた。
「あぁ──殿!お気が付かれましたか!」
積んだ枯れ葉の上に寝かせられていた光秀が、ふと真横に目を向けると、ほっとした表情の茂朝の顔があった。
その背後には二名ほどに減った家臣たちの姿もある。
「…儂は…いったい…」
と光秀がを起こそうとすると、脇腹にい痛みが走った。
光秀は苦痛に顔面を歪めながら、再び枯れ葉の上に倒れ込むと、瞬間的な強い痛みが抜けるのを待ってから
「…いったい、儂は…どうしたと…」
細い声で茂朝にねた。
「覚えておられませぬか? 落武者狩りの百姓らに襲われたのでございます」
落武者、百姓という単語を聞き、ぼやけていた光秀の記憶が徐々に鮮明になってゆく。
「……ああ、…そうか。…そうであったな」
「殿は竹槍で脇を突かれて落馬し、そのまま意識を失われましたが、我らも刀を抜いて応戦し、百姓らをらしましてございます」
それを聞いた光秀は、ぐっと眉根を寄せる。
「よもや百姓らを、殺めたのではあるまいのう!?」
「…え」
「殺めてはならぬぞ! あの者たちとて、本来ならば我らが守るべき民たち……。命をうてはならぬのじゃ」
「…殿」
自分を殺そうとした百姓たちを案ずる光秀の心根の清さに、茂朝は胸を突かれるものがあった。
三保野は今日という日に備え、密かに産婆のもとへ出向いて出産の指南を仰ぎ、
報春院も自身の経験に加え、濃姫専属の医師から改めて御産の知識を教わるなどして、あらゆる努力をしてきた。
故に、自分たちの力足らずのせいで、悪しき事態を招くようなことは到底許されない。
報春院も三保野も、この時ばかりは身分も立場も忘れて、共にこの難局を乗り切ろうと必死になっていた。
「三保野殿。ここは私一人でやります故、そなたは方々にお頼みして、今のうちにお湯の用意をしていただくように」
「…承知致しました!」https://telegra.ph/Championing-Change-in-the-Age-of-Social-Media-08-08 https://freelancemania8.wixsite.com/website/post/%E5%AE%A4%E5%86%85%E3%82%92%E4%BB%95%E5%88%87%E3%82%8B%E9%87%91%E8%A5%B4%E3%81%AE%E5%87%A0%E5%B8%B3%E3%80%82 https://writeablog.net/27ycfkl9ms
「それから臍の緒を切る為の打紐と小刀、それから手拭いももっと必要じゃ。急ぎ持って来てたもれ」
「はっ、只今」
三保野は頭を垂れると、急いで産室を出、寺内の薄暗い廊下を駆けていった。
そのすがら、本堂の付近を通りかかった三保野は
「…殿!畏れながら申し上げます!」
仏に祈りを捧げる信長の側に駆け寄り、笑顔で、だが恭しく平伏した。
信長は合掌をやめ、期待のこもった眼差しを三保野に向ける。
「──如何した!? 子が産まれたのか!?」
「い、いえ…。吾子様はまだにございますが、姫様におかれましては、今しがたお産の体勢に入られ、いよいよ、吾子様のご誕生を待つばかりの状態と相成られました」
「おお!そうか!いよいよか!」
「はい。おめでとう存じまする」
「祝辞を言うにはまだ早かろう。無事に子が産まれてからじゃ」
「も、申し訳ございませぬっ」
「いや、構わぬが──。それよりも、如何なのだ? 子はのう産まれそうか?」
「それは、まだ何とも申し上げられませぬ。ご難産となることだけは覚悟致しておりまするが」
「どうなるかまだ分からぬと申すか?」
「はい…。私も大方様も出来得る限り努めておりまするが、全ては姫様ご自身と、お腹の中の吾子様次第にございます」
「──」
「何か事あらば直ちに知らせに参ります故、どうか姫様と吾子様お二人の為に、更に深こう御平産をご祈願下さいませ」
「されど祈願なら先程から…」
「失礼致しまする!」
気がいている三保野は慌ただしく平伏すると、また外の廊下へと駆けていった。
信長の口から、疲れ切ったような重々しい溜め息が漏れた。
──それからまた四半刻、半刻と、時間だけが静かに流れていった。
「知らせはまだか!?まだ産まれぬのか!?」
三保野が去った後、暫くの間は仏像を前に経を唱えていた信長だったが、読経に嫌気が差したのか、
今では仏像の前を右往左往したり、本堂の中をぐるぐると歩き回るなど、落ち着きない行動をとっていた。
「ええい、遅過ぎる!何故こうも遅いのだ!」
産室の妻の苦しみをる余裕もなく、信長は大きな独り言を本堂いっぱいに響かせた。
元より短気な性格である。
不安と緊張で押し潰されそうな中で、悠長に経を唱えながら、ただ待っているなど彼には耐えられないことであった。
苛立つ信長が、自身の頭を乱暴にかいていると
「失礼つかまつります!」
本堂に僧侶が入って来て、信長の前で小さく頭を垂れた。
信長は期待感から、今一度その両眼をキラキラと輝かせた。
「何じゃ!?ようやく子が産まれたのか!?」
にございますぞ、お菜津殿」
二人は言いめるように告げるが、お菜津も頑なだった。
「さ、されど、他の侍女方に気付かれでもしたら、大変なことになりますし…」
「それは大丈夫じゃ。古沍殿が常にお側に控え、そなただとは気付かれないようにご配慮下さる──のう、古沍殿」
「ええ。私が出来るだけ、皆々をそなた様の周りに寄せ付けぬように、日々気を配ります故」
「されど……」https://rodney.bravesites.com/entries/general/%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%97%E7%9A%86%E3%81%AE%E4%BA%88%E6%83%B3%E3%81%AB%E5%8F%8D%E3%81%97%E3%81%A6 https://www.tumblr.com/debsysblog/758873263593111552/%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%8B%E7%A7%81%E3%82%92%E4%BF%A1%E3%81%98%E3%81%A6%E3%81%BB%E3%81%97%E3%81%84?source=share https://freelancer1.bloggersdelight.dk/2024/08/16/%e7%ad%96%e3%81%a8%e3%81%84%e3%81%86%e8%a8%80%e8%91%89%e3%81%ab%e3%80%81%e6%86%a4%e3%81%a3%e3%81%a6%e3%81%84%e3%81%9f%e7%9b%b4%e5%85%83%e3%82%82/
「大丈夫です。今とて姫様はご懐妊を隠す為に、風邪を引いた、熱が出た、体調が悪いなどと言うて、
お部屋に引きこもりがちじゃ。例えお菜津殿が奥の間へ身を隠しておっても、誰も不思議には思わぬはずじゃ」
三保野が自信をもって言うと
「──三保野の申す通りです」
前触れもなく室内の戸襖が開き、大きな腹を抱えた濃姫が入って来た。
「まぁ…姫様、大丈夫なのでございますか !?」
「左様なお身体でご無理を致してはなりませぬ」
「平気じゃ、これしきのこと」
三保野と古沍は急いで立ち上がると、濃姫の身体を左右から支えながら、静かに畳の上に座らせた。
濃姫は困り顔のお菜津を見据えると、ややあってから静かに口を開いた。
「お菜津。そなたに大変な役目を頼んでいることは、私自身もよう分かっておる。
なれどこれは、この腹の中の御子が健やかに産まれる為に、どうしても必要なことなのです。
私の懐妊を知る者の中で、も背格好も一番近いのはそなたじゃ。どうにか、引き受けてはもらえぬであろうか?」
「…お方様」
「頼みまする。暫しの間、私の影となってたもれ」
濃姫は懇願すると、っていた豪華な織打掛を脱いで、ふわりとお菜津の身に纏わせた。
「私が戻るまで、代わりに “ お濃の方 ” を務めてもらいたいのじゃ」
「──」
「頼む、お菜津」
濃姫の頭が頷くように垂れ下がるのを、お菜津は暫しとして見つめていた。
濃姫の御座所に信長の訪問があったのは、同日の夜遅く。
白い御寝間着に着替え、“ 明日に備えて ” 濃姫が早めにに就こうとしていた時のことだった。
濃姫は寝間着の上に小袖を羽織り、御居間に入って来た信長を鄭重に出迎えると、
彼を、上座の茵に座らせ、自身もその傍らにゆっくりと膝を折った。
ふと信長の目に、居間の次の間に置いてある黒漆塗りの長持ちや、挟箱などが映る。
「…明日の支度は、もう出来ておるようじゃな?」
「はい。衣装から小間物まで、全て三保野たちが整えてくれております故、後はこの身を輿に乗せるばかりにございます」
「左様か。道中は織田家の兵、また長政が手配してくれた浅井の兵らがしっかりと護ってくれる故、何も心配はいらぬ。
成菩提院は近江にあるというても、岐阜との国境を越えて直ぐのところじゃ。きっと大事なく安着出来るであろう」
「私一人の為に色々とご配慮下さり、まことに忝ない限りに存じます」
濃姫は軽く頭を下げると
「……義母上様にも、あのような芝居じみた真似をさせてしまい、大変申し訳なく思うておりまする」
付け足すように、今一度小さく頭を垂れた。
「気に致すな。それについては母上も了承済みじゃ。そちを無理なくこの岐阜から出す為には、療養という名目が一番手っ取り早いからな」