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土方は一時、あの若さの市村を隊士にして何を考えているんだと非難にあっていたことを市村は知っている。
──でもそれは違う。
副長は自分を若いのに隊士にしたひどい人なんかじゃない。
若いから、隊士にしてくれたんだ。
身寄りがなく、唯一の親族は兄だけ。
そんな自分を、年齢を見破っても何も言わずに入れてくれた副長。
自分を新撰組の家族の輪に入れてくれた副長。
この人のためなら、自分はなんだってできる。
そう思ってきたはずなのに、なんだ。この嫌な予感は。
「市村」
「はい」
市村はゴクリと唾を呑んだ。
「頼みがある」
そう言って、副長が自分に出した物は、美しかったあの漆黒の髪と、写真だった。
「……なんですかこれは」
言いたいことはわかってる。
でも、そうじゃないことを願っている。
「これ、日野に、実家に持っていってくれねぇか」
土方はまるで、近くにお使いを出すように、申し訳なさそうに眉を下げて笑っている。
そんな副長に、腹が立って、絶望して、狂いそうなくらいに、哀しくなった。
嫌な予感は、当たった。
なんで、そんな風に笑うんですか。
なんで、そんな物を渡すんですか。
それじゃあまるで…。
「……だ…」https://suzanwines.blogspot.com/2025/01/blog-post.html https://jeffrey948.eklablog.com/-a216462155 https://carinadarling.wordpress.com/2025/01/05/%e6%b2%96%e7%94%b0%e3%81%ae%e5%8a%b4%e5%92%b3%e3%81%ae%e5%ae%8c%e6%b2%bb%e3%82%82%e3%81%82%e3%82%8a/
「ん?」
土方は微笑みながら返してくる。
「嫌だ!!」
土方は驚いたような、納得したような、よくわからない顔をしていた。
市村がこんなにはっきりと土方の頼みを断ったのはこれが、初めてである。
こんなの…惨すぎる。
「絶対に嫌だ!!嫌です!!そんなの、自分で行ってください!!」
「俺は行けない」
「じゃあ、違う誰かに…!!」
市村は涙を浮かべた。
無理だ。
無理に決まってる。
自分には、できない。
「お前にしか頼めないんだ」
土方は市村を真っ直ぐに見た。
この人はいつだってそうだ。
真っ直ぐすぎるんだ。
自分は、それにしがみつくので、いっぱいで…。
「嫌ですっ…」
市村は涙を溢した。
「市村、日野に行ってくれ」
それは…
「逃げろと言うことですか?」
土方は珍しく、一瞬言葉に止まった。
土方は今の自分達の状況をよく理解していた。
しかしそれは、市村も同じであった。
「違う」
「違わない!!自分は、副長に着いていく!そう誓いました…!!」
「お願いだ市村」
“逃げてくれ”
そうとしか聞こえない。
「嫌だ…」
「頼む」
「嫌です…!」
涙と同時に、鼻水も出てきた。
「市村鉄之助!!」
「っ…!!」
突然、土方が怒鳴った。
「これは隊務だ。
お前に課せられた隊務だ。できないなら切腹しろ」
「副長…!!」
「俺は本気だ」
土方は短刀を市村の近くに投げた。
─なんで…。
嫌われようと、してる。
それが優しいんだよあんたは……。
「うっ…くっ…!!はい…!!」
「持っていって、くれるな?」
土方は優しく笑った。
ただただ、市村は頷いた。
土方は立ち上がると市村に近づき頭を撫でた。
「…ごめんな」
市村は頭を振る。
「お前といて、すげぇ楽しかった」
そう言うと、土方はもう一つ、市村の耳元で静かに呟いた。
市村は一瞬、目を見開き、土方を見たが、また顔をクシャクシャにして泣いた。
市村の嗚咽が、ずっと続いていた。
目の前には死体、死体、死体。
全身の血が引いた。
回りの仲間なんて、僅か。
「はっ…はぁっ…」
息は上がる一方。
それでも、土方は刀を振り上げ、立ち向かう。
やめて…。
やめて!
「もう無理ですよ!やめてください!この戦の勝敗なんて、もはや誰もが分かりきっています!!」
気付いたら、口に出していた。
私は…こんなことを…。
美海の叫びに土方は振り向き、こう答えた。
「それでも俺らはこれをやめることはできない。
俺らは近藤さんが進んだ道を真っ直ぐ行くだけだ」
「土方さ…」
「近藤さんが俺らの誠であって、正義だからよ」
そう笑って土方は走り出した。
だめ!
「だめ!!」
ガバッ!!
身体が急に持ち上がった。
荒い息。
滝のように流れる汗。
そこは布団の中だった。
目を覚ました。
あれは夢だったのだ。
「はっ…はぁ…っ…あ…」
榎本は土方だけでなく、美海達にも手を差し伸べた。
土方、美海は慣れたように握手したが、沖田等は何がなんだかという感じで手を握った。
この時代の日本にはない習慣なのである。
「しかし榎本さん。中々大胆なことしましたね。軍艦八隻盗んで来たらしいじゃないですか」
「まぁね。僕も流石に無血開城には納得できず、思わずね。松平くんも首謀者だよ」
そう言って片目を瞑ってウインクした。一つ一つの動作が西洋訛りである。
本当に、緊張を溶かしてくれるような人だ。
それに、切羽詰まった感じではなく、余裕感がある。
「松平さんに聞きました」
「まぁ君らを乗せてかなきゃいけないしね。でもね、八隻中一隻だけ、暴風にやられてアウトさ」
榎本は両手を上に上げて頭を振った。蝶ネクタイがよく似合っている。
「そういや、佐川くんは?」
「彼は…会津に残りました」
土方がそう答えると、榎本は小さく笑い、彼らしいなと言った。
「まぁしばらくゆっくりしていってくれ。あっちに着くと忙しいぞー」
10月12日に私達は榎本艦隊に同乗し、蝦夷地へ渡ることとなった。
幸い、まだ新政府軍の魔の手は伸びていない。
「土方さん。お疲れ様です」
「松平さん!」
程なくして、松平が顔を出した。久しぶりに見たが、相変わらず物腰の良い柔らかい話し方に変わりはない。
一つ変わったのは、力強い目付きだ。
彼もまだ諦めてはいない。
むしろ、蝦夷地に希望を抱いている。
「立花さん達も、よく来たね」
松平はそう言って笑った。
「佐川さんは……残ったんですね」
「えぇ」
土方から返事があると、松平は頷いた。
「蝦夷地に行くと、僕達の未来は絶対開けると思うんです!皆さんで頑張りましょう!」
松平の言葉に一同頷いた。
そうでありたい。それしか望みはない。
だが実際のところ、新政府軍、幕府軍に中立態度を取っていた米国が、とうとう新政府軍支持の表明を出した。
今まで最強だと謳われていた『開陽』(現在は榎本が保有している)に勝る、最新鋭『ストーン・ウォール・ジャクソン号』が新政府軍の手中に落ちる。
『開陽』は最強であったが、木造艦隊である。
砲数は勝るため、攻撃力はあるのだが、守備力に欠けてしまう。
これがぶつかってしまえば、勝てる可能性は極めて低い。
そして、移動の日は直ぐにやってきた。
ゆっくりできたのなんて、ほんの一瞬だ。
あれから、幕軍が増えるなど、人数は増えていった。
現在新撰組も、待ち合わせの海岸へ移動中である。
できるだけ人目につかない森を歩く。
「おーい。もうすぐだからな」
土方が後ろを振り向いて隊士に声を掛けた。
そして、前の木を掻き分けた時。
「……!!」
あり得ない人物に遭遇した。
土方も目を見開き、止まったのだが、相手も固まっている。
「…ククッ…よぉう…新撰組…」
相手はなんとも取れぬような笑みを浮かべた。
「…た…高杉ぃ…!!」
土方は苦虫を咬んだように唸った。
「高杉…今度は逃がしませんよ…」
沖田が睨み付ける。
「そんなこと言えんのかぁ~?」
「ふざけるな!!」
美海は高杉に叫んだ。
なんでこんなところに…!
美海と沖田は、以前に目の前で、しかも堂々と高杉、吉田には逃げられている。
「おーっと。静かにしな。ここには、俺の率いてきた長州兵がいるぜ」
土方のあの表情のわけはこれにあった。
高杉がいるということは、軍を率いていることを想定していたのだ。
下手をすればここで全滅だ。
しかも、よりによって船場の近くで。
新撰組全滅どころか、もはや蝦夷地への希望が絶たれる。
松平や榎本の笑顔が脳内で音を立てて崩れ去った。
「いやぁ、しかしお前本当に隊長だったのか?ちっせぇなぁ~!!」
「うるさい佐川さん!俺は普通なの!この人たちがデカイだけなんだから!」
佐川と藤堂は既に仲良くなっている。
始め、藤堂がわからなかったのは実質的に『新撰組』と佐川が会ったのは油小路の後だからである。
「まぁお前はチビッコだからなぁ」
ニヤニヤと原田が藤堂をつつく。
「な!左ノだってデカイだけで馬鹿じゃん!」
「まぁ左ノは馬鹿だが頭は良いんだよな」
永倉が苦笑いした。
「でも槍しかできないじゃん!刀なら勝つもんね~」
“俺はあまりに平凡だ”
そう思っていた藤堂だが、彼もまた一歩、進んでいる。
「まぁ…総司に掛かればお前もコテンパだぞ」
斉藤が小さく笑いながら呟いた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/6346629.html https://annapersonal.joomla.com/2-uncategorised/2-2025-01-06-14-63-71 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/6346655.html
「総司って、沖田か?あの船酔いの…」
佐川の言葉に全員苦笑いした。
「あいつら大丈夫かなぁ…」
ふと永倉が呟いた。
亀裂が生じていたとは故、自分達が離脱したことに罪悪感を感じている。
「永倉ぁ。大丈夫だろ」
また予想外に佐川が答えたため、一同目を見開く。
「土方さんがいるんだぜ?あの人が負けるわけねぇ。あの人の戦の仕方はまるで喧嘩だ。パパッと勝つさ」
「あの人は喧嘩師なんだ」
原田が言った。
「斉藤…山口くんから聞いた」
そうだ。あの喧嘩師がいたから日野の芋道場から新撰組まで成り立ったのだ。
負けてたまるか。
「それに、船酔いと言えどあの有名な剣豪、沖田に立花、犬っコロ…」
あぁ。
「「「市村です」」」
声を揃えて答えた。
可哀想に。佐川に羨望の眼差しを向けていたのに。
永倉は心の中で哀れんだが、犬っコロでわかってしまう自分が悲しかった。
「そうそう。犬コロ小姓の市村くん。あいつも土方さんに頼りにされてんだ。大丈夫だ」
いつも市村を邪険に扱っている土方からは意外すぎて目を見合わせた。
鉄。お前、あの人に頼りにされてんだってさ。
がんばれよ。
永倉は再び心の中で唱えた。そして小さく笑った。
「そうだな…大丈夫だ!」
そう言って、前に進んだ。
「平助。そういや鉄伸びたぜ?」
再びニヤニヤと原田が語る。
「まじで!?鉄のやつ~…ごめん…鉄って誰?」
藤堂は市村と入れ違いなため、知らない。
「犬っコロに抜かされちゃあ…なぁ?」
意地悪そうに佐川が笑う。
「だぁぁあ!もう!俺には犬っコロなんてあだ名なかったもんねぇ!」
「「チビッコ」」
原田と佐川がニヤつきながらいう。
永倉の予想していた通り、この二人はイキが合いそうだ。
「で…でも美海には勝ってたもん!」
「辛うじでな」
「もうやだこのおっさん達!!一ぇ!しんぱっつぁぁあん!!」
永倉は苦笑いした。
「永倉さん」
「ん?」
「近藤さんの墓ならここの天寧寺だ」
「………わかった。守るぞ」
永倉は目を閉じて笑った。
会津に更なる応援、三人が到着し、その後もしばらく会津は戦争が続く。
「やぁ土方くん」
「榎本さん!!お久しぶりです」
あれから、私達は仙台に到着すると、早急に榎本さんに取り次いだ。
彼は気さくな人で19の頃に一度蝦夷地にも行っているらしい。
その他には、幼少のころにジョン万次郎の私塾で英語を、その後にはオランダ留学など海外語学には長けている。
大政奉還後、海軍副総裁に命じられ実質的には幕府海軍のトップになった。
新撰組でいう、土方的立ち位置だ。
「待っていたよ」
玄関の中からそう言われ一気に寂しくなってきた。
近藤、土方、市村があっちで待っている。
「また、会えますよね?」
「あぁ。会えるさ。生きているかぎりな」
永倉が笑った。
北風が強い。
バサリと羽織が浮いた。
深く頭を下げた。
今までの感謝の気持ち──。
そして、前へ歩き出した。
近藤達と合流して進む。
「じゃあな!」
振り返ると永倉、原田が後ろから手を振っていた。
寂しいが、もう戻れない。
ここからはそれぞれの道を行く。
美海は大きく手を振り返すと再び前を向いた。
“たった一回負けたからなんだ。次勝てばいい話だろ”
強く、生きなきゃ。
私達は、強く生きなきゃいけない。
辛くても、前に進まなくちゃいけないんだ。
こうして私達は別れ、流山へ向かって歩き出した。
永倉、原田と別れてから美海達は夜道を歩いていた。
土方は前で石を蹴りながら近藤と並んで歩いている。
「なんだか昔を思い出すなぁ」
ふと近藤が言った。
「あぁ」
「まだしんぱっつぁんも左ノも、平助も、斉藤くんも、総司もいなかったころ」
「そうだな」
コツンと道の凸面に当たり、石が跳ねた。
「歳が喧嘩をする度に二人でボロボロになりながらこの道を歩いた」
「それじゃあ俺だけみたいじゃねぇか。近藤さんも暴れまわってたくせに」
「喧嘩師に影響されたんだ」
美海は月を見上げて笑いながら歩く幼い二人を想像した。
もしかしたらこの二人はここに生まれるずっとずっと前から何か強い絆で結ばれていたのかもしれない。
前を行く二人に幼い頃の二人が映った。
「また、始めからか」
土方が呟いた。
「始めからだ」
近藤も笑って答えた。
「だがなんでだろうな。近藤さんに総司に美海に市村に俺。こんな夜でも存外寂しくねぇや」
小さく土方が笑った。
なんだか隊士がいなくなって、新撰組もなくなったのだが、土方は穏やかになった気がする。
「お前ら、本当についてきてくれるのか?帰ってもいいんだぜ?今なら切腹は見逃してやろう」
土方は振り返ると笑った。
帰ってもいい。とは言ったが、帰れとは言わなかった。
美海は帰れと言われることを想定していたため驚いた。
「正直」
沖田が口を開いた。
「正直、自分は戦場に置いて最強だと思っていました」
だろうな。
今までの行動を思い返して美海は頷いた。
「だから、新しい戦にちょっと驚いただけです」
そう言って沖田は笑った。
「そうか」
土方も穏やかに笑った。
「ただ…」
「ただ?」
「伏見の後に鉄くんが言ってたこと、なんとなく分かった気がします」
市村はチラリと沖田の顔を見た。
そして、美海の羽織の裾を握りしめた。
「仕方あるめぇよ。俺らはあれが初めてだったんだから。今回分かったなら、次は大丈夫だ」
相変わらず屈託のない笑顔で近藤は笑う。
もうここまできたらやるしかない。
一度は揺らぎかけていた心だが、土方といることで再び決心がついたようだ。
沖田は小さく頷いた。
「もう大丈夫です。私は、あなた方が進む道をずっと、ひたすら着いていくと当の昔から決めていますから」
「自分も副長が行くならば例え火の中水の中!どこまでもついていきますよ!」
市村は握りしめていた美海の裾を離して大きくガッツポーズを作った。
「頼もしい小姓をもったな。歳」
近藤が楽しそうに笑う。
「まぁな。俺の小姓だぜ?このぐらいでないとな」
「鬼の小姓ですからね」
沖田も愉快そうに笑う。
「てめ!総司!」
土方が青筋を浮かべながら関節を鳴らした。
「嫌だなぁ。病人には暴力反対ー」
沖田はどこ吹く風。
こんな状況でもケラケラと笑っている。
これは沖田の性分なのか、それとも場の雰囲気を気づかってなのか。
手術後に倒れたためポケットに入ったままだったのだ。
よかった!これがあって!
「ますくと注射器…?」
松本は本当に不思議そうな顔をする。
「はい!二次感染を防ぐため沖田さんにはマスクを着けてもらいます。
もちろん私も先生も。沖田さんをいきなり隔離するのはあまりに酷なので多少の外出は許可しようかと。血を吐いたら完全に隔離療養に変えます」
本来は駄目だ。だが絶対助かるという確証もない。自由にできる間、自由にさせてやりたい。
「わかった。注射器と言うのは?」
「ストレプトマイシンは筋肉注射しかできないんです」
「?」
松本はよくわからないという表情をしている。
「まぁ筋肉注射をするときに教えます」
「ちなみにそれらはどのぐらいいるんだ?」
「注射器は5、6本でいいですが、マスクは…………………最低810枚はほしいです…」
「810!?」https://lefuz.pixnet.net/blog/post/168426373 http://flitted.blogaholic.se/ https://debsy12.blogspot.com/2024/11/blog-post.html
「毎日沖田さんと私達は変えるべきですから。投与はたぶん6~9ヵ月かかるんです」
「そうか…頼んでみる!」
「お願いします!問題はストレプトマイシンを作るときに使う顕微鏡ですね…」
海外……。海外。
輸入…。
貿易…………
貿易…?
「あぁ!!」
あの人がいるじゃん!
「ぅわぁ!なんだ!?」
美海の大声に松本は飛び跳ねた。
「海外…異国と貿易をやっている知り合いがいるんです!もしかしたら頼めるかも知れない!」
「本当か!?」
松本も嬉しそうだ。
「はい!えっと…マスクと注射は松本先生で、原料はなんとか集めるしかない。顕微鏡は海外で作って…」
美海は何やらぶつぶつと呟きだした。確認だろう。
「……立花くん。沖田くんには…告知するかい?」
「とりあえず沖田さんに言いましょう。無駄に心配させたくないので他にはまだ秘密です」
「わかった」
「行きますか」
二人は沖田の部屋へ向かった。
この時代では労咳を告知する。それはすなわち死を告知することを意味する。
言われた側も言う側もそれなりにダメージがある。
松本の場合長年医師を務めているためこんな境遇には何度も合っていた。
美海は実を言うと結核の患者にあたったことは一度もない。
医大や病院で習ったものの、精密機械で作ったし、差がありすぎる。
正直なところ不安だ。
教えてくれる先生もいない。
参考書もない。
機械も自分より上の医学を学ぶ者もいない。
頼れるものは自分の知識と記憶、頭脳だけ。
こんな状況に陥ることはなかなかないだろう。
コンコン…
「沖田さん?」
「………」
沖田は布団の中にくるまったまま返事はしない。
珍しく美海がノックしてきたからだ。
ガラッ
「沖田さん」
美海は勝手に入り、布団の横に座る。
続いて松本も座る。
人の気配が2つ。松本先生?
沖田は尚も黙りを決め込んでいる。
「沖田さん。落ち着いて聞いてください」
くる。
「あなたは……労咳です」
沖田はピクリと動く。
「……がう…」
「ん?」
松本が聞き返した。
沖田は布団から体を起こした。
「違う!私は労咳なんかじゃないっ!?ゲホッコホッ!」
落ち着いて聞いてなどいられないだろう。死を宣告された患者によくあることで、一番最初に表れる『否認』だ。
自分が死ななければならないということを否定して、一時的に心を防衛する。
「…………」
美海は黙って聞いている。
「違ゴホッ!ゲホッ!」
しばらく咳が続いた後、沖田は落ち着きを取り戻した。
「違う…。違います…。この咳も風邪で…。すぐに治って…」
「違うんです。労咳なんかじゃ…ない」
今までは茶化していたものを完全否定している。沖田もわかっていたのだろう。