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榎本は土方だけでなく、美海達にも手を差し伸べた。
土方、美海は慣れたように握手したが、沖田等は何がなんだかという感じで手を握った。
この時代の日本にはない習慣なのである。
「しかし榎本さん。中々大胆なことしましたね。軍艦八隻盗んで来たらしいじゃないですか」
「まぁね。僕も流石に無血開城には納得できず、思わずね。松平くんも首謀者だよ」
そう言って片目を瞑ってウインクした。一つ一つの動作が西洋訛りである。
本当に、緊張を溶かしてくれるような人だ。
それに、切羽詰まった感じではなく、余裕感がある。
「松平さんに聞きました」
「まぁ君らを乗せてかなきゃいけないしね。でもね、八隻中一隻だけ、暴風にやられてアウトさ」
榎本は両手を上に上げて頭を振った。蝶ネクタイがよく似合っている。
「そういや、佐川くんは?」
「彼は…会津に残りました」
土方がそう答えると、榎本は小さく笑い、彼らしいなと言った。
「まぁしばらくゆっくりしていってくれ。あっちに着くと忙しいぞー」
10月12日に私達は榎本艦隊に同乗し、蝦夷地へ渡ることとなった。
幸い、まだ新政府軍の魔の手は伸びていない。
「土方さん。お疲れ様です」
「松平さん!」
程なくして、松平が顔を出した。久しぶりに見たが、相変わらず物腰の良い柔らかい話し方に変わりはない。
一つ変わったのは、力強い目付きだ。
彼もまだ諦めてはいない。
むしろ、蝦夷地に希望を抱いている。
「立花さん達も、よく来たね」
松平はそう言って笑った。
「佐川さんは……残ったんですね」
「えぇ」
土方から返事があると、松平は頷いた。
「蝦夷地に行くと、僕達の未来は絶対開けると思うんです!皆さんで頑張りましょう!」
松平の言葉に一同頷いた。
そうでありたい。それしか望みはない。
だが実際のところ、新政府軍、幕府軍に中立態度を取っていた米国が、とうとう新政府軍支持の表明を出した。
今まで最強だと謳われていた『開陽』(現在は榎本が保有している)に勝る、最新鋭『ストーン・ウォール・ジャクソン号』が新政府軍の手中に落ちる。
『開陽』は最強であったが、木造艦隊である。
砲数は勝るため、攻撃力はあるのだが、守備力に欠けてしまう。
これがぶつかってしまえば、勝てる可能性は極めて低い。
そして、移動の日は直ぐにやってきた。
ゆっくりできたのなんて、ほんの一瞬だ。
あれから、幕軍が増えるなど、人数は増えていった。
現在新撰組も、待ち合わせの海岸へ移動中である。
できるだけ人目につかない森を歩く。
「おーい。もうすぐだからな」
土方が後ろを振り向いて隊士に声を掛けた。
そして、前の木を掻き分けた時。
「……!!」
あり得ない人物に遭遇した。
土方も目を見開き、止まったのだが、相手も固まっている。
「…ククッ…よぉう…新撰組…」
相手はなんとも取れぬような笑みを浮かべた。
「…た…高杉ぃ…!!」
土方は苦虫を咬んだように唸った。
「高杉…今度は逃がしませんよ…」
沖田が睨み付ける。
「そんなこと言えんのかぁ~?」
「ふざけるな!!」
美海は高杉に叫んだ。
なんでこんなところに…!
美海と沖田は、以前に目の前で、しかも堂々と高杉、吉田には逃げられている。
「おーっと。静かにしな。ここには、俺の率いてきた長州兵がいるぜ」
土方のあの表情のわけはこれにあった。
高杉がいるということは、軍を率いていることを想定していたのだ。
下手をすればここで全滅だ。
しかも、よりによって船場の近くで。
新撰組全滅どころか、もはや蝦夷地への希望が絶たれる。
松平や榎本の笑顔が脳内で音を立てて崩れ去った。