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「そこは大事ない。この武家政治は徳川様よりもずっと前……七百年前の鎌倉政権より続くものぞ。いざ朝廷へと返上遊ばされたところで、すぐに指揮を取ることは適わぬだろう。朝廷の一家臣ではあるが、徳川が中心となるに違いない……」
永井はニヤリと笑う。
つまりは、政権を朝廷へ返上することで所謂倒幕派の反発を抑え、朝廷の下で政権を握り続けようという考えなのだ。
「成程…………」 https://www.evernote.com/shard/s729/sh/354f8ad1-2d8a-82e8-3354-30081923d2f1/D65NhzpmC0qhMWI_gPShhjuHuy8SWARYvbipoPWJ44B8xIAf8pSCBnZ0yw https://blog.udn.com/29339bfd/180140172 https://carinacyril786.pixnet.net/blog/post/122400121
「この大政奉還の建白書はより出されたものとの事じゃ」
その響きに、桜司郎は前に聞いた坂本の言葉が浮かぶ。
『変わることは怖いものがやない。生きとし生けるもの、変わるのが当たり前がよ。目を向けようとしやーせん方が怖い。これからは変化に順応しようとするものが生き残る時代やき』
そしていつか侍の時代が終わるとも彼は言った。
この変化こそがその始まりなのだろうか。「鈴木君、といったか」
ぼんやりとしているところへ、永井から声が掛けられた。
「は、はい」
背筋を伸ばし、真っ直ぐに視線を返す。
「君はこの話しを聞いてどう思う」
そのように問われ、桜司郎は近藤をちらりと見た。意見を申していいのか許可を得るためである。
近藤は小さく頷いた。
「せ、僭越ながら……。政に疎い私にはこの策が吉と出るか、凶と出るかは分かりかねます。しかしながら、天子様の元で皆が心をひとつに日ノ本を立て直せるのであれば、さして悪い方には転ばぬのではないでしょうか……。変化を恐れてはならぬかと」
それを聞いた永井は目を細める。
「変化を恐るるべからず……。同じことを申した御仁を儂は知っておる。この建白書の原案を書いた者だ。土佐のという上背のある男でな」
その名前に桜司郎はぴくりと眉を動かした。
──土佐と聞いた時にもしやと思ったけれど。やはり坂本さんだったんだ。
「坂本というのは、あの寺田屋での銃を打ったという…………」
「うむ。その坂本だ。儂も何回か会っておるが、気風の良い爽やかな男だよ。彼奴と話しておると、不思議とその通りになるような心地にすらさせられる」
目尻の皺を深める永井を見て、桜司郎は無意識のうちに何回か小さく頷く。
ついこの間までお尋ね者となっていたというのに、今や幕府側の人間からの覚えも良いとは流石だと思った。
「しかしながら永井様。土佐は倒幕派であるとも聞きます。斯様に信頼なさるのも考えものかと」
「近藤君、確かにそなたの言う通りじゃ。しかし、土佐の実情は内部で揺れておると聞く。少なくとも先導する男が死なぬ限りは、安泰じゃろう。……むしろ、土佐に西国の暴発を抑えて貰うように仕向けた方が、徳川様の手を煩わせぬ故都合が良い」
永井は、土佐の内情を知った上で坂本らの意見を取り入れるというのだ。坂本ほどの影響力と説得力のある男の言を、西国の藩らもそう無碍には扱えまいと踏んだのである。
「……成程、そういうお考えでしたら」
「実はな、その坂本が京へ来ておるのじゃ。手出しは無用。取り締まることが無きよう、隊にもよくよく伝えてまいれ」
「ははッ」
桜司郎は近藤に倣って頭を下げた。しかしその頭は既に別のことでいっぱいである。
──坂本さんが京にいる。会いたい。会って、大政奉還の意図を直接聞きたい。 やがてその願いが通じたのか、坂本から文が届いた。今度は屯所へ届けられたのではなく、まさかの巡察中に町娘が恋文を装って渡してきたのだ。