[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
だから、と言葉を続ける。真っ直ぐな瞳で坂本を見据えた。
「高杉さんもそうですが、坂本さんにも感謝しています」
「感謝……がか?」 https://blog.udn.com/29339bfd/180140221 https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202312080003/ https://blog.goo.ne.jp/mathewanderson/e/79e39eb0db260911f9ace23b5898cbce
「ええ。私の真の性を知りながらもとして接してくださった。本来、女の言葉は軽んじられます。男であるかのように見せねば取り合ってすら貰えぬ世であるというのに、貴方は初めから違った……」
そう言えば、坂本はフッと笑う。参ったと言わんばかりに両手を上げた。
「ワシの負けちや。そがに言われたら、何でも答えざるを得んぜよ。……受け売り、それでええんじゃ。ワシもセンセらの受け売りばかりちや。けんど、そうして志は磨かれて広がり、やがて国が作られゆうが」
穏やかにそう言う坂本のことが大好きだと桜司郎は思った。沖田に抱くような男女のそれではなく、人間としてである。「大政奉還のことやったか、どこまで知っちゅう?」
「徳川公が持っている政権を天子様へお返しすること……ですか」
「そうじゃ。その目的は分かるがか?」
その問いに、桜司郎は言葉を詰まらせた。永井のそれを借りるならば、倒幕派を抑え、帝の下で権力を握り続けるための方便である。しかし、あくまでもそれは幕府側の見方に過ぎなかった。
「ええと…………。詳しくは、あまり……」
「ほうか。人の数だけ捉え方は沢山あるろう。…………けんど、そもそもワシが大政奉還を急いだことには理由があってのう」
坂本はそう言うと、突然ずいと距離を詰めてくる。対面から真横へ座ると、声を潜めた。
壁に耳あり障子に目あり、と警戒しているのだろう。
「今はまだ口外せんと、誓えるかの?」
「はい」
桜司郎は力強く頷くと、真剣な表情になった。
それを見た坂本は頷き返してから口を開く。
「…………噂には聞いちゅうかも知らんが、長州や薩摩ら西国の藩が幕府を相手に、を起こそうとしゆうがよ」
その言葉に桜司郎はドキリとした。戦となれば必ず人が死ぬ。街が焼け、多くの町民が家を失い路頭に迷う。
それをやろうというのか。
「けんど、向こう側にもそれを望まん御仁がおる。政権が幕府から離れたら戦は起こらん……そう思うたワシはそん人らと協力して、大政奉還を進めたがよ。……幸運なことにも、ワシの属しちょった土佐藩は慶喜公と近しい間柄やったき」
急な流れに見えた大政奉還は、一触即発を避けるための策だったのだ。
「という事は……戦は起こらないのですね」
「ああ、起こらん。起こさせん。そのためにこの坂本がわざわざ京まで来たがやき。無論、反対意見もあるろうが……結果的に丸く収まればええだけの話しじゃ」
にやりと笑うと、手にした盃を天へ掲げる。
「いずれは朝廷や徳川幕府だけじゃのうて、薩摩も長州も会津も、みなで物事を考える世にしたい。身分問わずにみなが話せる世じゃ。そう心をひとつにすれば、海の向こうの大陸にも渡り合える──そう思わんか?」
その壮大な計画に、桜司郎は一瞬ぽかんとする。遠い昔に、"身分を無くした世を作りたい"と誰かが言っていた気がした。
「……ええ……ええ!すごいです、坂──抜六さん!」
桜司郎は思わず興奮気味に声を上げる。
それに対して坂本はシッと指を立てつつも、満更ではなさそうに笑った。
やがて二人は外へ出る。夜の冷え込みが目立つようになっていた。ぶるりと身体を震わせながら、黙々と歩く。坂本は河原町三条にある材木商の酢屋へ泊まっていると言った。
四条大橋へ差し掛かったあたりで、不意に坂本が立ち止まる。
「……のう、桜司郎」
「はい?」
「もし……、もしワシの計画が失敗した時は、国のことよりも己の居場所を守ることを考えるがぜよ」
計画が失敗、それは"坂本の死"と"戦が起こること"を意味する。
胸の奥にじわりと嫌なモヤが生まれた。
その表情を見た坂本はニカッと歯を見せて笑い、桜司郎の背を叩く。
「