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「類殿もとても幸せそうなご様子で、窶れた面差しにも、以前のような華やかさが戻ったようにございます」
「ならば良かった。病は気からとも申す。奇妙との触れ合いが、生きる気力に繋がってくれれば良いがのう」
「御意にございますね」
濃姫が同調して頷くと、信長はくくっと小さく笑った。
「にしてもそなたは、次から次へと、人を驚かせるような真似ばかりをしおるな」
「え?」https://qr.ae/p2105G https://www.goodreads.com/story/show/1369892-zappos-had-calculated https://carinadarling1.wordpress.com/2024/07/30/%e3%80%8e-%e3%81%9d%e3%81%aa%e3%81%9f%e3%81%ae%e5%b0%8a%e5%a4%a7%e9%9d%a2%e3%82%82%e6%98%8e%e6%97%a5%e3%81%be%e3%81%a7%e3%81%98%e3%82%83/
「奇妙の養母となることを承知したかと思えば、早々に母と子を引き合わせ、触れ合うきっかけを作ってやるとは…。
そちはよっぽど暇をもてあましているか、度が過ぎるほどの善人であるかの、どちらかであろうな」
「……そのいずれかが答えであるとしたら、きっと、暇をもてあましている方でしょうね」
浮かんでいた微笑を奥へと押し込め、濃姫はしんみりとして呟いた。
「少なくとも私は、善人とは申せませぬ。真の善人であれば、類殿と奇妙殿の姿を見て、これ程に胸の中がざわめき立つこともなかったでしょう」
姫はその細く白い手を、そっと自分の胸の上に置いた。
「世継ぎを産むことを諦め、奇妙殿の養母(はは)となることを決めたこと。そして類殿と奇妙殿を引き合わせたことは、全て私自身が決めたことです。
今さら後悔などはしておりませぬ。 ……なれど、どんなに気丈に振る舞い、これで良いのだと自分に言い聞かせても、やはりダメですね…。
不本意ながらも類殿に妬いてしまいました。殿や皆から愛され、御子を次々と成し、おなごがこの世で持てる全ての幸せを得ているあのお方を」
「……なれどな濃、類はもう」
「分かっておりまする。だからこそ、心の中がざわめいてならないのです」
風にそよぐ中庭の花々を、濃姫は静かな面持ちで眺めた。
「いっそ私と類殿が犬猿の仲であれば、ある意味、清々しかったことにございましょう。さすれば、
ただ相手を妬んでいれば良いだけで、あれこれと要らぬ心配や気遣いをせずに済んだのですから」
「──」
「なれど私は、類殿の人となりを知り、思いがけずも、友と思えるほどにあのお方と心を通わせてしまった…。
だから悔しいのです。どんなに悋気(りんき)の念を燃やしても、私はあのお方を、決して嫌いにはなれないのですから」
「…お濃」
「益荒男の殿には、かように繊細な女心は分かりますまいな」
濃姫は儚げに微笑いながら信長を見つめた。
信長は口を閉ざし、真摯な瞳で濃姫を見つめ返している。
そんな夫に対し、姫はふふっと華やかな笑い声を向けた。
「左様に真面目なお顔をなされまするな。馬鹿を申し上げているのですから」
「…なれど…」
「お気になされますな。少々 殿に、愚痴を聞いていただきたかっただけにございます。溜め込んでいては身体に毒でございますもの」
濃姫の端麗な面差しに、いつもの気丈な笑みが広がる。
「それに殿、お忘れかも知れませぬが、私は美濃の蝮と呼ばれし斎藤道三の娘にございます。これしきのことでへこたれる程、か弱きおなごではございませぬ」
「……そうか…。そうであったな」
快活に語る姫を見て、信長の顔にも自然と笑みが綻(ほころ)んだ。
「元より、私はかようなことぐらいで気落ちしている暇などないのです。 私は曲がりなりにも奇妙殿の母となったのですから」
「ああ、そうじゃな──。子の親であるという自覚を持ち、今にも増して強ようならねばな」
濃姫は笑んで頷いた。
「それに、殿の御子を成す為には、色々努力も必要でしょうし」
そう言って自身の腹部に手を当てる濃姫を見て、信長はふいに、悩ましげな表情を浮かべた。
「…本当に良いのか?」
「何がでございます?」
「そなたは奇妙と織田家の為に、世継ぎを産むことを諦めたと申しておったが、本音では……」
「殿っ」
濃姫は射抜くような眼差しで、夫の口から出ようとする不用意な発言を制すると
「良いのです。本当に」