[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「お気に召されましたか?」
「無論じゃ。気に入らぬ訳がない」
「ならばよろしゅうございました。お方様の御満足の程を知れば、きっと殿もお喜び召されましょう」
侍女は深く頷くと
「それでは、お方様、恐縮ですが一旦御居間の方へお戻り下さいませ。申し上げねばならぬことがございます故」https://buymeacoffee.com/debsy/and-another-reason-love-nkd-brand https://teletype.in/@debsy/o11sCUetRO9 https://www.storeboard.com/blogs/ecommerce/o-ne-of-the-most-frequent-questions/5847749
そう言って、濃姫や三保野たちを再び居間の方へ戻した。
濃姫が上座の茵に着座し、三保野、お菜津らお付きの女たちが居間の端々に控えると、先程の侍女は濃姫の御前に腰を据えて
「お方様、本日はまことに祝着至極に存じ奉ります」
と、慇懃に三つ指をついた。
「申し遅れました。本日よりお側付きの一人として、お方様のお世話を致すことと相なりました、古冱(こご)と申しまする」
「古冱殿…か」
「以後、お見知り置き下さいませ」
古冱は軽く一礼すると
「此度 殿より直々にご命を賜り、室内の家具の配置、調度品の選定に至るまでの全てを任させていただきました」
「まぁ。…ではこの部屋はそなたが?」
「御意にございます。お気に召していただけましたでしょうか?」
「ええ、殊の他」
濃姫は満ち足りた表情で頷いた。
確かに、清洲城での例もあり、信長一人が整えたのでは、こうも品良くはいかなかったであろう。
「実に良い趣味じゃと思い、感心していたのですよ」
「畏れ入ります。生家が青野にて家什屋を営んでおりました故、良品か否かを見極める力だけは人一倍鍛えられておりまする」
「左様であられたか──。 ではきっと、店の看板娘であったことであろうな」
「いえ、そんな」
「何故に奥勤めの道を選ばれたのです?」
「かつて、店が氏家様のご贔屓に預かったことがございまして、そのご縁で氏家様の奥方様に勧められて」
「…氏家と申すのは、三人衆のお一人の氏家直元殿のことか?」
古冱は一礼するように頷いた。
「生家共々、氏家様には色々とお世話になりまして、今尚 多大な恩義を感じておりまする。
…故に、御三人衆を蔑ろにされて参った龍興様への忠誠心など、はなから有って無いようなもの」
「──」
「お方様。この城に残った女たちは、私を始め、今や誰もが織田様を新たな主君と慕い、敬うておりまする。
ですから、“ 殿のお命を狙う ” などと、あらぬ懸念を抱かれませぬよう、願い奉ります」
古冱のきっぱりとした物言いに、濃姫は思わず口を「あ」の字に開いた。
「先程の私たちの話を聞いておられたのか?」
「お許し下さいませ」
肯定がちに謝すると、古冱は深々とその黒頭を垂れた。
濃姫は静かな面持ちでそれを見つめていたが、ややあって
「…いや、良いのじゃ」
と緩やかにかぶりを振った。
「何も知らぬ内から、勝手にそなたの心を決めてかかろうとした私にも非はありまする。──すまぬことを致したな」
「滅相もございませぬ。私の方こそ、身の程を弁えず失礼を申し上げまして」
「構いませぬ。寧ろ言うてくれたおげで、余計な憂い事を抱えずに済みました」
濃姫は双の頬に、針でつついたような小さな笑窪を浮かべると
「美濃は我が故郷なれど、城も町も殿が色々と手を加え始めておる故、昔とは勝手が違うところも多かろう。
分からぬこと、戸惑うことがあった時は、よくよく助けになってたもれ。古冱殿」
と、懇ろに声をかけた。
「無論にございます。お方様のお力となれるよう、誠心誠意、相務めて参る所存にございます」