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諦めて早く元気になろうとしたけど,忘れようとすればするほど桂の優しい声や眼差し,温もりや香りまでも思い出してしまう。
その度にじわじわ涙ぐむからいつもの様に振る舞うなんて出来なかった。
功助とトキに“話せば楽になる”と言われたけれど,三津は無言を貫いた。
だけどこのままではいけない事も重々承知している。
『話せたらどんなに楽か……。』https://mypaper.pchome.com.tw/jennifer9922/post/1381752585 https://ouji1212.ni-3.net/Entry/19/ https://freelancer.anime-voice.com/Entry/69/
それは話し相手さえいればの話。
『あぁそっか。話し相手や。』
思いついたのがこの場所だった。静かで誰も来ない。どれだけぼやいても聞かれはしない。
「今日も聞いてもらっていい?」
ここに来て新平に話をする。
新平がいなくなってから好きになった彼の事。
その彼を酷く傷付けてしまった事。
「会って謝られへんけどこんな時どうしたらいいんかなぁ…。」
ずっとこのまま胸の奥が重たいままなのか。
それが当然の報いなのか。
「好きにならんかったら良かったんかな…。」
結局辿り着くのはそこなんだ。
出逢わなきゃ良かった。好きにならなきゃ良かった。距離を保てば良かった。
こんな堂々巡りをずっと新平に聞かせている。
「もう飽き飽きやんね。ごめん。」
だけど優しい新平ならきっとこう言ってくれる。
『いつでも来たらええし,なんぼでも聞いたる。』
今はこの世にいないとは言え,恋仲だった彼に今好きな相手の話をするなんてこれまたおかしな事態だと三津は自嘲する。
それだけ桂に惚れてしまったと言う事実と,もう会ってはならない現実を上手く噛み砕いてしまわなければならない。
「考えるの疲れる…。おばちゃんがね,すっごい心配するからあんまり長居出来へんねん。また明日ね。」
これを繰り返していればそのうちどんどん気持ちが薄れていくんじゃないかと思って,また明日も同じ事をする。
お店で無理して笑うより,一人で部屋に篭もるより,随分と心が楽なんだ。
人気のない寂しい道を往復するこの時間だけが何よりも落ち着く時間になった。
いつものように静かな雑木林を抜けて帰ろうとしていた。
いつもなら誰もいないこの道を,一人…二人…三人と木の影から現れた男達に塞がれた。何度も出くわしてきたこの場面。
もし用件が同じならばこう言う。
「お前が三津か。」
『もう分かってる癖に…。』
「違う…。って言ったらどいてくれるんですか?」
この言い種が相手の怒りを誘うのは分かっている。でももううんざりだ。
「お命頂戴する。」
この台詞も聞き飽きた。三津は何だか笑いが込み上げてきた。
「何が可笑しい!」
「だって私には生きる資格もないんでしょ?」
近くにいると迷惑と言われるのなら遠くにでも行ってやる。
だけど“お命頂戴”と存在する事さえも否定された。
「長州藩の方ですよね?だったら最期に伝えてもらえます?桂さんにありがとうございましたって。
それさえ伝えていただければ結構です。」
それからゆっくりと膝をついて手を合せて目を閉じた。
カチャリ…と小さな音がした。きっと鍔を押し上げてゆっくりと刀が抜かれているはず。
目を閉じてしまったから音だけでどんな状況を思い描く。
恐怖は無かった。これで楽になれると思ってしまったから。
「駄目です!絶対駄目!」
駆けてくる足音が次第に近付き,勢い良く滑り込んでくる音がした。
それには三津の目も大きく開く。
そう叫んで三津と男達の間に割り込んで来たのは伊藤だった。
「伊藤…さん?ビックリした…。何でここに居るんです?」
「女将に聞きました!
三津さん本当にごめんなさい。私の考えが浅はかでした。でも命だけは絶対に救います。」
何が何だか分かっていない三津はぽかんと口を開けて伊藤の背中を見つめた。
「伊藤さん,まだ乃美さんを裏切るんですか?手向かいする者は斬ってよしと言われてるんですよ。」
三人が伊藤にまで刀を向けた。
「手向かいする者は斬ってよし。そうか,じゃあ斬ってみな。
こちらとて手加減はしないよ。なんせ三津の命がかかってるからね。」
斬り捨てるのが楽しみだと言わんばかりの不敵な笑み。
そいつを携えてゆらりと三人の背後をとったのは吉田だった。
「なっ!」
三人はあんぐりと口を開けて吉田の全身を目に映した。
「非力な町娘に三人も充てがうとは乃美さん相当殺したいんだね。
まぁ…俺が許さないけど。」