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取り分け今日の合戦ではまだ十六歳のフィルハンドラという、生きてあればこれから後花も実もある人生を送れたかも知れない少年の命を我と我が手で断ち切っていた。合戦のナライとは言え、ハンベエも悄然として胸塞ぐものが無いわけでも無かった。 師の下を離れ今日に至って、突拍子もなく強くなった事を無論ハンベエは自覚していた。ただそれを最初の頃のように無邪気に喜びも出来ず、逆に或いは自分はとんでもない化け物になってしまったのかも知れないと複雑な気分になっていた。そんなハンベエの鬱屈をよそにタゴゴローム軍の大部分は敵の降伏を受け、戦勝に安堵していた。三万人いたタゴゴローム軍は一万八千人に減っていた。傭兵騎兵団もレンホーセンに付いて行った二百騎はほとんど無傷であったが、ハンベエに付き従った百騎は二十八騎になっていた。多くの犠牲を払ったが、それでも勝つ事が出来たのは幸運な事であった。 後は、四天王セイリュウが纏めた敗残兵一万人が降れば今回の戦は終りである。待てよ、四天王と言えばもう一人スザクと言う奴がいたはずである。奴はどうしたのだろうか。ガストランタと同じように風を喰らっ" もう何度、久我さんが何気なく発する一言に胸を躍らせてきただろう 「……じゃあ、今も寝たフリしてくれれば良かったのに」 間一髪で久我さんが私の体を支えてくれたため 久我さんとの交際は、思いの外順調だった"て逃げてしまったのだろうか。いや四天王と称され、武勇のほどを認められていた男である。流石に逃げはしなかった。ただ配下の連隊はステルポイジャンの死後に起こった軍の総崩れに合わせて散り散りに雲散霧消してしまっていた。ハンベエがガストランタを追って戦場を後にした頃、スザクは同じ戦場の別の場所で百数十人のタゴロローム兵士を向こうに回して一人大立ち回りを演じていたのである。馬はとうに倒れたものか徒歩(かち)立ちであった。既に死を覚悟しているらしく、回りを十重二十重に取り囲まれても少しも慌てず、左右に一対の剣を握って迫り来るタゴロローム兵士達を一人一人と倒して行った。 手強いスザクに手を焼いたタゴロローム兵士達はいっそ遠巻きにして、弓で討ち取ろうかと相談したが、今日の激戦で槍部隊にも弓部隊にも矢を残している者はほとんどいなかった。それに、負け戦の最後に死を覚悟して孤軍奮闘する勇士を遠矢でなぶり殺すと言うのも人情として為し難いところではあった。この期に及んでスザクが逃亡も自決もせず木っ端兵士を斬り続けているのは、恐らく己の最期を飾るべき好敵手の出現を待っているのだと兵士達は容易に察した。こんな時こそ、ハンベエやドルバスが出て来れば良いのだが、ハンベエは既に戦場を離れており、ドルバスの所には連絡が行っていないらしい。さあ困ったぞ、下っ端兵士じゃ手も足も出ない。どうしたものやらと取り囲んでは見たものの引け腰の兵士達。勝敗定かならず、伯仲の争いの時には死をも恐れなかった猛兵達も、こうして勝利を手にした後は下手な怪我はしたくないと欲が出て来て、いっかなスザクを攻めきれない。そこへ、フラリと現れた人物がいた。秋晴れの昼間の空のように色鮮やかなマントを風に翻していた。裏地は燃えるような赤である。イザベラであった。レンホーセンと共にステルポイジャンの本陣を奇襲し、ステルポイジャンの死亡直後にレンホーセンの尻を叩いたこの本性不明の女は、その後は味方の戦いに加わる事もせず、風に流るる木の葉のようにふわふわと戦場を見て回っていたのである。それにしても、いつもながら衣裳は何処で調達してくるのだろう。タゴロローム兵士の間を緩やかな風のように抜けて前に出たイザベラは、「おや、見知った顔が死に切れずに、亡者のように足掻いているじゃないか。